今日から使えるロジカルシンキング

新製品が売れない時代の儲け方 グッチ自ら、中古のグッチを販売したら売れる?

苅野進

一度は新品で売った自社製品を中古で買い取り

 グッチやサンローランを保有するラグジュアリー製品コングロマリッドの仏ケリンググループが、フランスの中古ブランド品マーケットプレイスのヴェスティエール コレクティブへの出資を発表しました。

 急激な成長を見せている中古流通市場で出資者として利益を得るだけでなく、公認中古品を出品するなど今後積極的に関わっていく予定だということです。新品の購入記録のある顧客に連絡をして、過去に購入したもので転売したいものはないか問い合わせて、買い取っていくシステムも導入するそうです。

 みなさんもお気づきの通り、メルカリなどの急成長により「中古・2次流通市場」は拡大しています。新製品が売れずに、一度売れた製品が転売されていくのです。つまり、新製品を発売するときに、ライバルは自社製品の中古品になってきています。

 グッチの新作を買って欲しいのに、転売されているグッチの中古品にお金が流れている。しかも、中古のグッチの流通によってグッチ本体にはお金は入ってこないのです。そのような状況において、「中古」「転売」を商売とすることが高級なイメージを維持するのに悪影響であった過去とは違うと判断し、「サステナブル」などをキーワードにして本家が参入し始めています。

 ケリンググループの出資は、とても真新しい感じのニュースとして各メディアで取り上げられていましたが、過去に参考事例のある極めて正統な「2次流通への1次流通事業者の進出」です。

 まず最も分かりやすいのは「認定中古車」というビジネスモデルです。かなり大きい「中古車市場」に、製造メーカー自体が進出したものです。製造メーカーが責任をもって扱うのだから、優良な中古車なのだというイメージでシェア獲得を目指しています。また、テレビCM で有名なトヨタのT-UP(現トヨタのクルマ買取)などは、自社製品以外も買い取っていますのでシンプルに中古車市場への進出です。

 また、大リーグでは、公認のチケット2次流通が盛んです。日本でも2020年から横浜DeNAベイスターズがこの制度を始めています。日本でも問題になったチケット二次流通市場に自ら進出することで、市場を安定化させるだけでなく、利益も確保していこうという試みです。

1次流通の「補完」でなくなってきた2次流通

 しかし、長い目でみると個数、顧客数の減少はやはりインパクトが大きく、またビジネスを複雑で難しくします。

 2次流通への進出や付随サービスの開発・販売は元となる新製品の販売があってこそ成り立つものでもあるので、1次流通業者としては1次流通の補完としての位置付けのはずです。しかし、この流れが続くと過去数年分の在庫が流通し続けている市場にちょっとずつ新製品を投下していく形になります。そうすると、ビジネスの構造自体が大きく変わっていくことが求められることになります。

 2次流通と1次流通の根本的な違い、それは2次流通は「商品の仕入れをコントロールできない」ということです。自ら作ることもできず、発注もできません。買い取らなくては始まらないのです。

 どの2次流通の宣伝を見ても、「売ってください」というメッセージがほとんどです。「本を売るならブックオフ」「車を売るならT-UP」「メルカリなら15秒で出品」など印象に残っているのではないでしょうか。

 中古市場の拡大に対しては

  • 転売可能なら、少しくらい高い値段でも買ってみよう
  • 中古市場で安くお試しをして、よかったら新製品にも手を出そう

 という新品市場とのwin-winの流れになることを期待している向きもありますが、そこに進出するとなると、簡単ではないのです。

2次流通は自社製品への追加・関連出費を狙うことでもある?

 新製品が売れない時代に、2次流通や、商品などを併せて購入してもらう「クロスセル」、顧客が購入した商品と同種で“より上位のもの”を提案し購入してもらう「アップセル」によって収益を確保するというのは基本的な戦略ではありますが、縮小するマーケットにおいて椅子取りゲームになっているとも言えます。

 たとえば中古車市場は2020年に過去最大になっていますが、それは新車を買っていた層がその経済力を高級な中古車に向けたことによるものです。新車販売数は低下し、それは時間差でそのまま中古市場に流れる台数の減少にも繋がっていて、中古車の販売台数自体は減っています。中古スマートフォンが当たり前になるなど、新製品市場が伸び悩み、中古市場が拡大している状況では短期的には中古市場での収益確保が当然の戦略になります。

 しかし、中古市場はモノづくりとは違う商売です。自分たちが作り、売った製品を取り扱うので、簡単に考える企業も多いのですが、失敗事例も少なくないのです。

 一方で「2次流通」をさらに抽象化して、「自社製品を買ってもらった後に、顧客が他社に支払っている追加、関連出費を狙いに行く」と考えると、わかりやすいビジネスが見えてきます。これらはクロスセルと呼ばれ、基本思想は「一度掴んだ顧客は離すな」ということです。

 最近の指標として下記の2つが重要視されています。

収益をあらわす指標

  • ARPU(Average Revenue Per User)
  •  =ユーザー1人あたりの平均売り上げ金額
  • ARPPU(Average Revenue Per Paid User)
  •  =有料課金ユーザー1人あたりの平均売り上げ金額

 とくに後者は、一度お金を払うくらいの好意的なユーザーなわけですから、優良顧客としてさらなるサービスの重要ターゲットになります。

 たとえば、スポーツジムではトレーニング用品やサプリメントなどの物販が重要になってきています。売り上げの5%ほどが目標で、10%を占めるジムもあるほどです。また、小学生向けの大手学習教室では、集団授業に関する補習などで家庭教師を雇う生徒がいるところに目をつけて、自ら個別指導教室を運営しています。

 モノづくりや新サービスの提供という点では中古市場よりも実はこちらの方が圧倒的に既存のモノづくり企業の構造に合致しているとも言えるのです。

新製品が売れない時代の流れにどう乗るか

 もはや、「モノづくり企業ではない企業」が出てきて、「究極にまで2次流通を進める」ことで収益を得ようとする状況を想定すべきなのでしょう。「もう新製品の投入はいらない。既存の製品だけで回していきましょう。そのお手伝いをします」というサービスにどう対抗するか? その流れを止められないなら、その流れにどう乗るか? 長期的な戦略が大事な時期になっていると言えます。

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら