6月1日にソフトバンクが法人事業に関する説明会を開催しました。「これからは法人向けに色々なサービスを提供していき、法人事業を大きな柱に育てていく所存です」という内容なのですが、ここには「個人向けの事業が、そもそも難しい」という状況があります。
みなさんもご存知の通り、モバイル端末の世帯普及率は95%を超えています。また、ここにきて携帯電話料金引き下げに代表される「官製値下げ」も始まりました。個人向けは「そもそも」成長する要素がないのです。
キャパが足りない=無理ゲー
コンサルタントの口癖であり、ビジネスの問題解決の基本である「そもそもこの現象の論点は何なのか」を考えると、ソフトバンクはいわゆる「無理ゲー」に陥っていることがすぐにわかるのです。無理ゲーとは難度が高すぎてクリアするのが無理なゲームのことですね。転じて実現不可能な物事を指すときにも使われます。
コンサルティングでいえば、PPF(プロダクトポートフォリオ)でいうところの「金のなる木」化です。早いうちに次の芽を育てなければいけません。
みなさんは数学の「鳩の巣原理」をご存知でしょうか?
鳩の巣が5個あります。そこに6羽の鳩を入れようとすると、かならずどこかに2羽を入れざるを得ない、というものです。「そもそも」キャパシティが足りないということです。
算数の問題で言うと、367人の子供がいるとすると、必ずその中に「同じ誕生日」の2人がいるというものですね。カレンダーには多くて366日しか欄がないわけですから、そこにひとりずつ入れていけばかならずどこかに2人は入ってしまうわけです。
このように「そもそも」望みが叶うようなキャパシティはあるのかを考えることはビジネスの長期的な戦略を考える上で重要なのです。全体が足りなかったり、シュリンクしていることに気づけば、早めに次の成長分野への投資を始めることができるからです。
ソフトバンクの「法人事業の利益を4倍にする」戦略
実は20年ほど前から、コンサルテイング会社へは、通信事業各社からの案件として「法人向けサービスをどう切り開くか?」は存在していました。法人向けといえば「会社用携帯電話」を販売するくらいしかなかったからです。
ソフトバンクにおける法人事業の売り上げの割合は個人向けの4分の1ほどしかないのが現状です。
ソフトバンクの宮川潤一CEOはここから4年ほどで法人事業の利益を4倍ほどにしたいと語っています。みなさんなら、どのような戦略を考えますか?
事業展開は、基本的には2方向で考えてみることがスタートです。
- (1)上流への進出
- (2)水平展開
(1)「上流への進出」の例
たとえば、多くの飲食店ではスマートフォンをレジの代わりに使っていますね。端末自体はソフトバンクから購入しているものも多いはずです。しかし、その中で動いているレジスター機能などは他社が握っています。この場合の「上流への進出」としては、最後の端末部分だけでなく、システムの構築も担っていこうという戦略が考えられます。
(2)「水平展開」の例
すでにモバイル端末を使っている分野の技術と知見をほかの分野に展開していこうというものです。たとえばみなさんが使っている地図アプリの位置情報技術は自動運転へと使われていますね。
「水インフラ事業」に進出したソフトバンク
上流への進出では、既存プレイヤーとの対決になります。このような状況ではシンプルに「人材の確保」に動くのがソフトバンク流ですね。中途採用はもちろんですが、会社ごと買い取るのが基本戦略です。お金があったらコンサルティング会社であるアクセンチュアを買い取りたいのではないでしょうか(笑)
水平展開においては実際にいくつかの発表がありました。他でなかなか見ないなと思ったのは「水インフラ事業」です。そのひとつとして、ソフトバンクはポータブル手洗いスタンド「WOSH(ウォッシュ)」の販売を始めました。
何が水平展開なのかというと「法人営業部隊が、その顧客にそのまま水の小型再生プラントを営業できるというのがありますね。また、この機器はインターネットに接続されていて、制御されているという点もそうです。
こちらももちろんソフトバンクらしく、既存企業との資本・業務提携でスピーディーなのが特徴です。AIやIoTを活用した水の再生処理技術を持っていた東大発ベンチャー「WOTA(ウォータ)」と手を組んだのです。自前で「社内公募」などやってる暇があったら、すでに芽が出かけている企業を買い取って育てるというのがほかの日本の大企業との大きな違いですね。
お手本どおりのソフトバンク
ソフトバンクによる多角化戦略は、
そもそも今の状況は?無理ゲーになっていないか?
を考えること。さらに、
新規事業は基本に忠実に、そして基本だからこそ一気加勢で勝つ
というお手本通りのロジカルシンキングの事例として紹介できる内容だったと思います。
ソフトバンクは新戦略の評価も早い企業ですので、2年くらいのうちには今回の方針の結果を見ることができますので、是非皆さんも「あの時の戦略策定の結果は?」と気にしてみてくださいね。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら