長寿企業大国ニッポンのいま

事業承継で変貌を遂げた日本の老舗企業 「後継者たちが挑んだ変革」成功の極意

葛谷篤志

 第5回「『変革を!』意気込むあまり後継者が陥る失敗」では、責任感のあまりに空回りしてしまう後継者の例を挙げました。今回はうって変わって、事業承継後に事業変革を成し遂げた後継者たちの成功事例を施策とともにご紹介し、奏功したポイントをまとめたいと思います。

 これまでの数多くの取材で、先代の思いを紡ぎつつも、新たなイノベーションを起こした後継者にお会いしてきました。その取材経験の中で学んだ事業変革に役立つヒントをお伝えします。

 私が取材をしてきた中で、後継者が実際に行った事業変革での成功ポイントは以下4つです。

  • クレドを設定し、会社の方向性を改めて定義する
  • デザインを一新し、より現代に即したサービスに変革する
  • サービスのポジションを見直し新たな市場に打って出る
  • 多角化経営に切り替え、既存事業にシナジーを生み出す

 後継者の立場で、先代から引き継いだ事業に変革を起こすときに注意すべきことのひとつがタイミングです。後継者の方々がどの段階で変革をおこなったのか、その点にも触れつつ、現在も果敢にチャレンジする経営者の事例をご紹介いたします。新たな経営スタイルを推進していく際にぜひ参考にしていただければと思います。

1.クレドを設定し、会社の方向性を改めて定義する

 経営用語で「クレド(Credo)」とは、企業活動における価値観や行動指針のことです。本記事では企業のミッション・ビジョン・バリューなども含めてクレドという表現を使います。

 事業承継後、取引先や社員の皆さんとのコミュニケーションがとれてくると、後継者は経営者として会社の全体像が見えてきます。同時に、より組織の士気を高めるために会社の価値観や行動指針を定義するケースが多いようです。

 私が取材した中に、千葉県の会計事務所があります。現代表(後継者)は、先代経営者であるお父様が、70歳を超えたあたりから、事務所を継いでほしいと言われはじめたといいます。ご自身の所有する会計事務所を経営しながら、お父様の事務所の承継をなかなか受け入れられないままに平行線が続いていた中で決心をしたそうです。引き継いだ事務所には5名のスタッフがおり、お父様の信頼も厚く、200社ほどの取引先を抱えていました。

 ワンストップ型の会計事務所として事業を行なっていた先代に対して、現代表は、事務所を引き継ぐ際に、事務所全体がチームとなって取引先を支える体制を構築し支援を強めることにしました。

 事業承継のタイミングで、新しい事務所体制を取引先に伝える場として、お披露目パーティを開き、これからのビジョンを社内外に浸透させることを実施しました。パーティは、取引先の大多数が参加し、代替わりと、新たな事務所の姿勢を理解していただく場として、絶大な効果を発揮したそうです。

 クレドを設定するだけでなく、取引先にも大々的に伝え、事業変革への理解を促すことで、さらにチャレンジをしている経営者です。

2.デザインを一新し、より現代に即したサービスに変革する

 日本の老舗企業のインタビューを重ねる中で、日本酒や焼酎などの酒蔵の取材を三回ほど経験しました。それぞれ、異なる都道府県ですが、三社とも商品などのデザインを一新しています。

 福岡県にある酒蔵では、八代目の女性代表が今から数年前に酒蔵を継いでいます。代表は、元々ウェディングプランナーとしてキャリアを積んでいましたが、後継者不足ということもあり、社員として約3年働いたあと、自ら志願して、酒蔵の当主になっておられました。

 200余年という歴史ある酒蔵で、今までのファンの方を大切にしながらも、新たな顧客層を獲得するため、そして新たな酒蔵のイメージを展開するために、デザインを一新しています。

「私は、みんなが日本酒に対して抱いている価値観を変えられる立場にある」

 デザインを一新するというチャレンジは、ご自身の立場への認識がきっかけだったそうです。ボトルデザインを新しくし、ホームページやSNSを活用したプロモーションを展開、日本酒および酒蔵のイメージの変革を実現しています。デザイナーも、新社長の想いに賛同した方が集い、新しい酒蔵のコンセプトを打ち出し続けています。

 実際にこちらの酒蔵では、「年に1つ改革を」をテーマに、毎年新たな挑戦を続けています。

3.サービスのポジション見直し新たな市場に打って出る

 沖縄県の泡盛酒造の社長は創業者である叔父様から数えて三代目の当主です。

 数年にわたり営業部長として泡盛の販売に従事してきてこちらの後継者は、元来の泡盛のイメージだけではどうしても限界が来る、とスパークリングや梅酒などを製造し、泡盛以外の領域にチャレンジされています。

 オリジナルの泡盛はあえてデザインをそのままにとどめているそうです。飲みやすい梅酒やスパークリングなどは、より幅広い客層を獲得するとともにで、居酒屋などの流通に乗りやすい商品を増やす試みでもあります。

 マーケティングにも力を入れています。10年以上にわたりブログを更新し、蔵見学をYouTubeで配信するなどして、自社の商品を消費者にとってより身近なものにする努力をされています。

 これらのチャレンジにより、顧客層を広げることに成功し、様々な企業とのタイアップを実現されています。

4.多角化経営に切り替え既存事業にシナジーを生み出す

 最後にご紹介するのは、岡山県にある住宅設備の販売会社です。

 こちらは、先代経営者の婿養子として後継者が代表に就任しています。住宅設備の販売会社として、家庭用の流し台や風呂・ガス器具などを販売して地元に愛されていた企業を、より地元密着型にし事業を拡大するために、リフォーム業を開始しました。

 事業承継後5年でのチャレンジです。住居の内装仕上げまで行うことで、住宅設備の販売件数が伸び、地域に信頼される企業となっています。

 その9年後には、培ってきたリフォームのナレッジを生かしカビを根絶する工法を生み出しました。現在はその全国展開を推し進めています。

 こちらの後継者は、実のお父様が建築業を営んでおり、その事業を承継する予定でしたが、奥様のお父様(先代)のたっての希望もあり、婿養子として事業承継を行いました。そして、任せられた企業のトップとして、事業を発展させるために、既存事業にシナジーを生む新規事業を展開し成功を収めています。

事業承継後の事業変革に必要なのは「周囲の賛同」と「覚悟」

 上記以外にも後継者による事業変革の成功事例は数えきれないほどあります。冒頭で、成功のポイントを4つご紹介しましたが、その土台となるのは、「周囲の賛同」と成功させるための「覚悟」だということを取材する中で実感してきました。

 市況の変化が激しい中で、事業承継後に事業を変革することで成功する企業は生まれやすいのかもしれません。古き良き日本企業の良い部分を後世に残しつつ、新しい価値を提供する企業がより一層増えてほしいと考えております。

葛谷篤志(くずや・あつし) 事業承継士
一般社団法人 事業承継協会埼玉支部 理事
ウェブマーケティング企業での業務を通じて地方企業の後継者不足を目の当たりにしたことをきかっけに、自身で「事業承継士」の資格を取得。自身が運営するWEBマガジン「事業承継ラボ」では、後継者の経営革新・経営改善に関する情報を配信。国内のより良い企業の、継続・存続を支援する。

【長寿企業大国ニッポンのいま】は、「大廃業時代」の到来が危惧される日本において、中小企業がこれまで育ててきた事業や技術を次の世代にスムーズにつなぐための知識やノウハウを、事業承継士の葛谷篤志氏が解説する「事業承継」コラムです。アーカイブはこちら