今日から使えるロジカルシンキング

ソニーや日本電産の「やみつき人材戦略」 新規事業で日本企業に欠けている視点

苅野進

ソニー・ミュージックエンタテイメントが制作会社を買収するワケ

 ソニーグループのソニー・ミュージックエンタテインメントが、イギリスのポッドキャスト制作会社Somethin’ Else(サムシン・エルス)を買収するという発表がありました。この買収で注目したいのは、「制作会社」の買収だということです。

 2020年12月にもソニー・ピクチャーズエンタテインメントの合弁会社が、アニメ配信サービス「Crunchyroll(クランチロール)」の運営会社、Ellation Holdingsを買収した際にも大きなニュースになりましたが、クランチロールはユーザー9000万人、有料会員も300万人と言われています。「すでに顧客が付いているサービス」の買収という点でわかりやすく馴染みもある戦略だといえます。

 しかし、今回のSomethin‘ Elseの買収は「番組制作会社」つまり、そこで働いている人材そのものがターゲットです。これは「人材」に関する戦略としては、日本企業が二の足を踏むタイプのものだと感じます。

日本の社会構造が生みやすい人材戦略の「モレ」

 ここでロジカルシンキングのフレームワーク「モレなくダブりなく(MECE《ミーシー》)」(関連記事)の教材によく使われる問題を紹介します。

「貯金額を増やしたい」とき、さてどうしますか?

 ビジネスパーソンの多くはこの問題の解決策として、日本の社会構造とそこで染み付いた感覚から、「いかに節約するか?」という策ばかり次々と思いつきそうですが、「モレなくダブりなく」の視野で考えると、「節約する」のほかに、

  • 収入を増やす
  • 支出を減らす
  • 他からもらう

 といった策も考えられるのです。

 日本の多くの職場環境では、給料は定期昇給、「副業する」などの考え方も定着していません。「収入を増やす」とか「他からもらう」はなかなか思いつかないのでしょう。

 これは小学生のロジカルシンキングの教材にも採用されるレベルのものですが、既存の社会構造の中にいると基本的な方針ですら「考えモレ」してしまう好例です。

「育てる」よりも「買う」ほうが圧倒的に速い

 人材に関しても似ています。「新しい分野を開拓しなくてはいけない」という状況になったときに、日本企業の多くは「社内の人材の中から、スライドさせてやらせてみる」という方針しか見えていない場合が多いのです。「新規事業担当」などという感じで、いわゆる「無茶振り」が頻発しています。

 これは一見、コストをかけずに新しい魚を釣るという賢明な戦略に思えるかもしれませんが、新規事業において「スピード」は非常に重要です。いわゆる素人があれやこれややっていても出遅れてしまうのです。シンプルに「新しい能力を持った人材を社内に用意する」ための策を考えてみましょう。

 例えばこんな感じでしょうか。

外部にいる人を使う

 は、

外部から人を採用する

 だけでなく、

一時的に外部の人材を活用する / 外注する

 もありますね。

 また、このよう策もあります。

欲しい人材がいる会社ごと買う

 これこそ、今回のソニー・ミュージックエンタテイメントの戦略ですが、日本ではソフトバンクや日本電産などが積極的ですね。この買収(M&A)という戦略は、経験したことのない企業だと二の足を踏んでしまうのでしょうが、一度経験するとそのスピード感がやみつきになるようです。

 「M&A」というとなんだかおおごとのように感じますが、当事者たちは新たな人材の獲得手段の1つくらいにしか考えていないのです。「自前」といえば聞こえはいいのですが、素人を育てるというのは大変だという実感があるのです。

 最近ですとまさに「AI人材」はそれにあたるのではないでしょうか? おそらくAI(人工知能)に疎い経営トップが「誰か適した人材はいないのか?」とか「積極的に採用しよう!」といったレベルでは抱え込むことができないくらい枯渇しています。電通が、データとAIに強みを持つデータアーティストを子会社化したことはニュースになりました。

 インド理系トップといわれるインド工科大学の就職面接セミナーでは、優秀なAI 人材には、その場でかなりのオファーを出さなくては採用が難しくなってきているそうです。

ロジカルシンキングの初歩の初歩でつまずく日本企業

 人材戦略において「モレなくダブりなく策を検討する」の初歩の初歩でつまずいている企業が多いのはとても残念です。“日本企業文化”というのもあるのでしょうが、まっさらな新人を「既存の社員」がじっくり育てていくという流れでは新しい分野に対応できる部署をスピーディに用意するというのは無理なのです。

 「そんなの無茶振りですよ!」と嘆いている新規事業担当の方は、ぜひ積極的な外部人材戦略を提案してみてはいかがでしょうか?

苅野進(かりの・しん) 子供向けロジカルシンキング指導の専門家
学習塾ロジム代表
経営コンサルタントを経て、小学生から高校生向けに論理的思考力を養成する学習塾ロジムを2004年に設立。探求型のオリジナルワークショップによって「上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成し、指導者養成にも取り組んでいる。著書に「10歳でもわかる問題解決の授業」「考える力とは問題をシンプルにすることである」など。東京大学文学部卒。

【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら