ビジネストラブル撃退道

小山田圭吾氏の炎上は予想できた? 広告業界で高まる「身体検査」の重要性

中川淳一郎

 東京五輪の開会式をめぐって、ミュージシャン・小山田圭吾氏の「過去のいじめ」が問題視され、同氏が辞任するほか、様々な関係者が辞任や解任に至りました。今、広告業界では「身体検査」の重要性が高まっています。

 過去の出来事がバッシングの根拠に…

 過去の不祥事やスキャンダルが一発出れば、それまでの準備が覆る状況になっているからこそ、組織・企業はCMキャラや専門家としての起用に慎重にならなくてはいけません。こうした状況の中、一つ大事になってくるのが「ネットオタク」の存在です。

 匿名掲示板「5ちゃんねる」をはじめ、ネットを日々見続けている人間は、「これは炎上案件だ」という勘がけっこう当たるものです。小山田氏についていえば、私はその名前が出た瞬間に「あっちゃー、こりゃ炎上待ったなしだ……」とすぐに思いました。

 不思議なもので、ネットではとある名前を見ると、それに関連したキーワードが付随し、バッシングの根拠になっていくのです。たとえば、元モデルの木下優樹菜さんであれば「タピオカ恫喝」、競泳男子の瀬戸大也選手であれば「不倫」といった形で、延々とその話題が取沙汰されてしまうのです。私自身も、何らかの形で名前が出た時、必ず「泥酔してTBSラジオで暴言」というネタが取沙汰され、毎度叩かれます。

 「ネットオタク」の力で炎上を回避

 そうした状況下で、広告や広報の業務に携わる人々は戦々恐々としながら自社で採用する人物の“不祥事”を探すことになります。そんなときに力を発揮するのが「ネットオタク」なのです。

 彼らは、とある名前を見るだけでネットがどのように反応するかが瞬時に分かります。そして、その予想は大抵当たるものです。ネットが大好きな人々はこれまで「日陰者」のような扱いを受けてきましたが、昨今のような状況でこそ、彼らの知見が活用されるべきなのです。それこそ「この企画が炎上するかどうか」さえ高い精度で予想できるわけですから、大した能力です。

 小山田氏に関していえば、本当にネット上の反応は予想できていました。何しろ、同氏に関する記事がこれまでにも登場するたびに、1994年、1995年の雑誌インタビューの内容が取沙汰され、毎回プチ炎上を繰り返していたのですから。

 テレビでは同氏のこの件については「音楽業界関係者の間ではよく知られていたが」といった言われ方をしていましたが、実際は「ネットオタク(2ちゃんねる、5ちゃんねるウオッチャー)の間ではよく知られていた」です。

 リスク承知で起用したなら、その人物を守るべき

 私は現在も広告・広報業界の仕事をしていますが、先日提出したのが「ネットで取沙汰されがちで炎上するかもしれない人リスト」です。

 過去のスキャンダルに加え、政治的な発言も含め、物議を醸す人物を約50人出しました。もちろん、過去の話だし、政治的信条が糾弾されるべきではないものの「とにかくこの人達は何らかの物議を醸すだろう」ということで出しました。

 私としては、本当にこの人物を起用したいのであれば起用すべきだが、リスクはあり得る。その時は毅然とした態度で「この方の起用が最善のプランだった」と言い、その人物を守るべきである、という主張をしました。

 妙なバッシングが発生する恐れはあるものの、それを上回るメリットをその人物がもたらすのであれば起用すべきです。そうした覚悟を企業に持ってもらうためにこのリストを作ったのです。

 小山田氏については、今後大企業が起用することはないでしょう。今回の一連の騒動は、ネットの炎上が実社会にすさまじき影響を与えることを示しました。今後はアニメキャラや漫画のキャラの使用が加速するでしょう。彼らは不祥事起こしませんから。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら