社員が所属企業と関連した情報をネットに書き、炎上した結果、会社の広報や公式SNSが「不適切な発言をしました。申し訳ありませんでした」と謝罪をすることがあります。これに対し、「問題社員」への対応をどうすべきかは、会社にとっては重要なリスク管理です。
広告代理店はクライアント企業の秘匿事項を握る存在です。そうした状態にあるからこそ、ついつい世間に対してその秘匿事項を書きたくなってしまうことがあるのでしょう。以前、私の知り合いが頭を抱えていたのが、彼の会社の若手社員が、発表前の新車の写真をツイッターで公開してしまった件です。
広告代理店とメディアの違い
自動車会社は、新車を自動車雑誌等の記者に発売の随分前にサーキット等で公開し、試乗をしてもらいます。ここでの取材を記事化してもらい、発売のタイミングで試乗記や事前ルポなどが掲載に至るのです。
こうした現場には広告代理店の社員も同行します。この時、自動車メーカーからすれば広告代理店の人間は「身内」。今後の販売戦略を共に考える同志として信頼しているからこそ、秘匿事項を見せるわけです。
モータージャーナリストを含めたメディア関係者も「身内」ですが、公正な目線で論評をする必要があるため、彼らと企業がなあなあの関係になるわけにはいきません。その車の良い点のみを広告表現等に落とし込む必要がある完全に身内の広告代理店の人間とは、やや立場が違うといえます。
そんな関係性が自動車会社、広告代理店、自動車関連メディアには存在するのですが、批判をすることも仕事である記者・編集者でも「情報解禁日」はキチンと守ります。ジャーナリストとして関係性を悪くしてでも「この情報は出すべきである」という判断がされる可能性がゼロではありませんが、不用意に解禁前の情報を流出させてしまうと、その後の関係性が悪化するため、メディアの側にも「情報解禁破りはご法度」との意識があるのです。
つまり、身内ではないメディア関係者でさえ「情報解禁日」は守るのに、私の知り合いの会社の若手社員はその協定を身内の立場で破ってしまったということです。
そりゃあまだ世の中に出ていない新車の試乗会に参加したら興奮してその写真をSNSに公開したくもなるでしょう。しかし、本当に新車というものは自動車会社にとっては、社運を賭けたものであることが多いのです。なんとしてもそのデザインや性能は一切外に出すわけにはいかない。ライバル企業のスパイだって、その新車の情報は喉から手が出るほど欲しいもの。それほどまでに大事な情報を、あろうことか広告代理店の若手社員がSNSに公開してしまったのです。
企業のSNS炎上への対処法
これは確かに大問題ではありますし、当然役員は血相を変えて自動車会社に謝罪に行きましたし、出入り禁止の危機もあったと聞きます。数十億円の売り上げを吹っ飛ばす可能性もあったこの情報流出騒動ですが、この騒動の副産物として社内ではSNSの公開について、厳密なルールが設定されました。
一人の若い社員の大失敗により、その後の同社内におけるコンプライアンス意識は相当高まったのです。大きな売り上げが失われる可能性はあったものの、長期的視点で見れば、ここで痛い目に遭って良かった、という解釈もできます。何しろ、なんとかクライアント企業には許してもらえたのですから。
朝日新聞社をはじめとし、社員がSNSで発信する企業は数多くあれど、必ずと言っていいほど時々誰かが炎上します。この状態を回避するには、社員にSNS利用を禁止する、という手もあります。しかし、SNSはうまく使えば商品のPRやブランドイメージの向上につながります。
一度失敗する社員が登場することにより、社内のコンプライアンス意識と危機感が高まることは悪いことではありません。また、失敗をやらかしてしまった場合のリカバリーのやり方によっては、逆に評価を高めることもあります。
もちろん炎上は良いことではありませんが、社員の軽率な投稿については、その社員が「たまたま」その第一号になってしまっただけとも捉えられます。私は前出の広告代理店がその後、気を引き締めたことを知っているため、ミスをしてしまった若手社員は「いつかミスをする誰か」の第一号になっただけなのかな、とも思っています。
ミスをしてしまった場合は関係者に謝罪をし、あとは社内教育を徹底する。それが非常に重要です。
【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら