若い人の相談にのることが割と多い。いわゆる人生相談から転職相談までと範囲は広い。およそ20代前半から30代前半くらいまでの方だろうか。その上の世代からの相談は圧倒的に仕事のうえの相談で、仮に人生をテーマにしたとしても、若い世代を相手にするように真正面から「如何に生きるべきか」ではなく、少し横目で人生を眺める。
そもそも、ぼく自身、若い時から相談を受けることが多かったが、特に大企業のサラリーマンをやめてイタリアで生活するようになり、相談の数が多くなった。
距離的に遠い人間なら話したことが周囲に漏れないだろう、と思っている節もありそうだ。もちろん、イタリアにいる人から相談されることもある。日本人の場合もあるし、イタリア人の場合もある。
ここでは、特に日本にいる20代の人たちと話していて気がつくことを書いてみたい。
今は昔よりも選択肢が増えたと言われる。就職ひとつとって、ぼくの20代のころとはまったく違う。日本の大企業の従業員になる優位性が圧倒的に減ったし、業界が階層別ではなく人材がフラットに移動するようになった。かつてであれば大規模製造業から流通にいく道はあっても、逆はとても難しかった。
外資系企業が「はみ出し者」の就職先ではなくなった。どちらかといえば、現在は業種によっては外資系の方が優先される傾向にあるだろう。
また修士課程修了者が研究職以外の立場で働ける。博士号をとった人の仕事の場がまだ少ないようだが、社会に出てから学び直すことが珍しいことではない。統計では日本のリカレント教育の普及が低いが、少なくともそのような道が選択肢としてあり、それが可視化されている世の中にはなってきた。
ある年齢になったら結婚という圧力がまだあるだろうが、かつてと比較すれば少ない。結婚する理想年齢を前提に職の選択肢の範囲を狭めなければいけないという障壁を突破することが、容易か否かは別として、他人から非難されることは少なくなったはずだ。
結婚自体、同じ国籍同士に限らない。違った国籍の人と一緒に生活すると決意した人の数も増えている。その結果が、スポーツの世界で活躍するアスリートの多様性として、誰にでも認識されるようになった。
言うまでもなく、その変容を心地よく思わない人が差別的な発言に及ぶこともある。しかし、そうした差別発言に公然と反論する人も同様にいる。
長々と書いてしまった。これらはぼくがメディアから仕入れる情報と実際に若い人たちと話して知る現実の組み合わせである。いろいろと問題はあるにはあるが、何らかの抜け道も含めて選択肢は増え、それらが目にみえるカタチで存在し、自ら調べればその突破口も見いだせることも多い。
ぼくが20代の人たちと話していて思うのは、このように選択肢がたくさんあるにも関わらず、それらが自分の選ぶべきオプションであると思っていないケースが多いということだ。
「そういう道があるのは知っているけど、何となく調べるのを敬遠していた」というパターンである。
選択肢があまりに多いと自分で選ぶ判断に自信がなくし、姿勢としてネガティブになるという傾向がある。しかし、そうではない。選択肢そのものを見ていないのだ。選択肢の中身を調べるよりも、数少ない突破口のありかとそれをどう通過するかに頭を悩ませている。
何事も実践ありき、との心構えのうえで突破法に夢中になるのではない。突破のためのロジックとその方法を自分で編み出そうとしないのだ。
実は子どもの視界が、親の眺めている視界とあまり変わらないところにある。
親が子どもの視界を拡張するにあまり役に立っていない。更にいえば、突破のロジックが分からない選択肢は選択肢ではない、と親が事前に規定してしまっている様子が透けてみえる。
だから、前述のように、これだけ何十年もの間に世の中の仕組みや考え方に変化があっても、思いのほか、狭い範囲で自分の人生をみている若い人が目につく。
よって、こうした若い人の相談にのるときは、相手の視界に入っていない選択肢の存在と、それらの突破のヒントをアドバイスするのが適当だと思っている。
今の若い世代は能力に優れ意欲もあり、想像してもいないようなことをする良い人材が多いと賞賛する声が多い。ぼくも、そういう人たちを実際に知っている。その一方で、いまいちのところで足踏みして、そのまま後退してしまう人たちもいる。
いつの時代でも同じような割合で、それらの2つのタイプがいるのだが、ちょっと歩く向きを変え背中を押すだけで前者の仲間に入れる人は多いのだ。
あまり「大声で叫ぶ」教育論なんかに夢中にならなくていいから、少しより丁寧に若い人たちに接して欲しいと願う。それだけで若い人は生きやすくなる。力を注ぐべきは若い人と社会のインターフェースの改善だろう。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。