ビジネストラブル撃退道

「来ないでくれ」コロナで地方に行けない営業マンの憂鬱 “代替案”の重要性

中川淳一郎

 先日、浄水器の営業マンと喋っていたところ、彼はこう言いました。「僕は大阪支社勤務で、大阪以西の兵庫から山口までが担当エリアです。神戸や姫路、岡山、広島はまだしも、それ以外の小さな都市のお客さんからは『来ないでくれ』と言われています。こちらは現物に触ってもらった方がより商品への理解が深まるので、対面にしたいのですが、とにかくコロナを恐れている。リモートの説明で売り上げは減っています」

 都会のビジネスパーソンあるある

 人口の少ない地域の人々が都会人に対して抱く恐怖心がよく分かるエピソードですが、実際8月の「第5波」では人口関係なく各地で陽性者数は激増。しかし、テレビは都会が悪いかのような報道を行ない、結果地方の人に恐怖を抱かせ、都会の人が差別を恐れて地方に行かなくなりました。

 私はこの男性に「多分、恐怖心が続いている間は終わらないと思います。仕方ないので、相手にZoomで懇切丁寧に商品を伝え、なんとか装置の優れた点を伝えて下さい」としか言えなかったです。

 しかし、これは都会で働くビジネスパーソンにとっては「あるある」なエピソードではないでしょうか。CMを撮影する人にしても、撮影場所として地方都市を予定していたのに、自治体のフィルムコミッションの部署から拒否された、という話も聞きます。各地の市が運営する施設には「県外客の利用はご遠慮ください」との貼り紙もあります。

 地方の温泉施設などが、県外客をツイッターで拒否する例もあります。地域を守らねば……と必死なのでしょうが、結果的に「あなたのところは行かないので安心してください」と言われてしまう。

 直接行けないのなら…

 ここで考えたいビジネストラブルとは、何かを恐れた人の意識差をいかに埋めるか、ということです。福島第一原発の事故があったことを受け、福島産の農産物や海産物を恐れる人がいるように、一旦何かを恐れるとなかなか元に戻るのは難しいものです。冒頭の営業マンにしても、地方都市の顧客の恐怖心を取り除くことは、おそらく無理でしょう。しかし、その地域も重要な売り上げ拠点であるので、おいそれと捨てるわけにもいかないという状況だと思います。

 その際、同氏ができるのは「その地域に歩合制の営業マンを一人外注で雇うこと」です。この人については、実際に面接をし、信用に値する人物かを見極める。いい人材がいたら採用。実は、同氏がその街で新規に顧客を開拓するよりも、地元に顔が利く中高年に営業を委託すれば、その方が売れるかもしれないのです。それは私が、昨年11月に東京から佐賀県唐津市に引っ越したから予想できることです。地方特有の「知り合いかどうかが重要」という文化があるのです。

 人口を見れば分かるのですが、東京23区の面積が627.6平方キロメートルで人口971万6517人なのに対し、唐津市は487.6平方キロメートルで人口は11万8791人です。人口密度にすると、東京が1万5482人で唐津は243人。実に63.7倍もの差があります。だから知り合いを1人か2人経れば大体の人とつながってしまう、という状況にあるのです。

 唐津で出会った保険の営業マンの顔の広さったらなかったです。街を一緒に歩いていると、やたらと色々な人から挨拶されますし、誰かを紹介してもらいたい場合はその人が紹介してくれます。こんな人は案外いい営業をするかもしれません。私は、彼が浄水装置を知り合いの店などに「置いてちょうだいよ。オレに歩合でお金入るからさ。そのお金で食べにくるからさ」なんて言い「あんたがそこまで言うなら…」とハンコを押してくれる様子すら想像できました。この人経由で、隣の市のいい営業担当者を紹介してもらえば、自分で販路を開拓するよりも売り上げは上がるかもしれません。

 このように、現状に何らかの制約がある場合は、「それでもできること」を考えなくてはいけないのではないでしょうか。

 柔軟に“代替案”を考えられるか

 もう一点、重要なのは代替できる地域を探すことです。営業の話とは異なりますが、2001年にCMの取材をしていた際、テーマは「最近人気の海外ロケ地」でした。現在はそもそも海外ロケなどできないことも多いでしょう。だからあくまでも当時の話なので恐縮ですが、「なるほど」と思ったことがあります。

 広告会社の人に取材をしたのですが、人気はタイ・プーケットとチェコ・プラハだと言うのです。意外な発言でしたが、こう言われて納得しました。

「元々CMの人気ロケ地は、ビーチ関連ではハワイ、車のCMなどでヨーロッパの香りがして人気だったのがパリでした。しかし、両方とも近年費用がかかり過ぎるようになってしまいました。そんな時に代替地を考えていたのですが、『ウチは安いよ! そしてハワイに(パリに)似ているよ』と手を挙げたのが、プーケットとプラハだったのです。以来、この2か所はロケ地として人気です」

 こうしたことを考えると、代替できる同規模の土地を見つけることも重要でしょう。恐らく、多くのクラスターを発生させた市はすでにコロナへの恐怖に対する免疫ができているので、そうした街が候補になるのではと思っています。

 ビジネスは万事うまくいかないもの。なんとか生き残るための代替策を皆さんお考えくださいませ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら