松山英樹、圧巻の優勝で幕を閉じた「2021 ZOZOチャンピオンシップ」。マスターズ勝者の実力をまざまざと凱旋試合で見せつけてくれました。歴史的試合として長く語り継がれるのではないでしょうか。
そもそもゴルフ世界最高峰のPGAツアー公式戦、日本で開催されること自体が一大事件です。300ヤードオーバーが当たり前の圧倒的なパワーと同時に、グリーン上での数フィート繊細極まるパットの精妙が当たり前のように前提とされるトップコンペティションはすさまじいものでした。(関連記事『松山英樹選手の歴史的快挙で味わう 「マスターズ」のプライスレス』)
そんなビッグイベントも、昨年大会は新型コロナウイルス流行による渡航制限の影響によりアメリカ開催を余儀なくされましたが、早3回目です。2019年第1回大会でのタイガーウッズ優勝の瞬間は記憶に新しく、すでに何かが起きる大会のオーラをまといだしているように思います。何より、日本中のゴルファー特に関東在住であれば自身がプレーする機会も少なからずと身近な千葉県印西市「アコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブ」での開催というところが、否が応でもワクワク感を高めてくれることは間違いありません。
1日5000人という入場制限がかかったといえども有観客での試合は、やはり臨場感が各段に違うことを実感しましたし、実際に周辺でも観戦の自慢話を聞くことが多く、微笑してしまう他ないファン心理の盛り上がりを感じました。そんな観戦に行った日本のゴルフ好きのオーディエンスシップのマナーや熱心さは多くの選手がコメントしてもいましたが、まったく誇らしい限りです。
とかく最近ではネットとのせめぎ合いの中でコンスタントに電波に乗るとは言えないゴルフ大会ですが、今回最終日はテレビ朝日系地上波、BSと大枠で放送されたこともやはり贅沢な大会の印象に拍車をかけましたし、実際最終日の世帯視聴率8.3%(テレビ朝日系列関東/24日午後4時から26分平均)とこの時間帯としては異例に高いもので世間的な関心の高さを感じさせます。
創業社長ならではの大胆な決断と戦略眼
それもこれもZOZOという冠スポンサーの英断があっての大会実現でありました。何分アピアランスフィー=出場料だけでも数十万ドル以上が必要なレベルの選手が、ハードな日程の中参加するのも大きな賞金額があればこそ。メジャー大会に準ずる賞金総額995万ドル(約11億円)、優勝賞金179万ドル(約2億円)は何とも豪気です。
もちろん協賛社は賞金提供にとどまるわけでなく、大会運営費や放送枠など多くのメニューを賄うこととなります。チケット販売収入など収入の部もあるとは言え、巨額の協賛費が必要なことは言うまでもありません。こんな大きな決断を下せる人は創業社長の他なく、大会開催決定の当時ZOZO社長前澤友作氏ならではの判断だったことは間違いありません。
もちろん大前提として自らもゴルフ好き、シングルハンディと言われるほどのゴルフ競技への理解の深さがあってのことと思われますが、それ以上に最近では「お金配りおじさん」と自称し、時に酔狂にさえ思えるような社会還元のこだわりがベースにあっての決断に違いありません。実際に、この大会が日本のゴルフファンへの大きなプレゼントになっていることは紛れもない事実であるように感じます。
しかしながらよく見ると、そんな富豪の道楽的な文脈だけでまとめることはかなり不十分で、この大会スポンサードが経営的な戦略眼の上でもかなり鋭いものであると思われるのです。そもそも群雄割拠のファッションECの世界でZOZOがメジャーになったきっかけは、「ユナイテッドアローズ」や「ビームス」など有名どころのセレクトショップが出店したからです。
そのいきさつを紹介した記事を読んだことがありますが、誰でもできる交渉事ではなかったはず。というか、そもそもEC黎明期と言えそんな大物ブランドに出店交渉しようとさえなかなか考えが及ばないのが普通であるように思います。
ネット上のショッピングモールでもあるファッションECサイトの価値は、どれだけメジャーな出店者を集められるかで決まります。ちょっと前までは、良くも悪くもインディーズ的なロック感の身近さや文化的親近感でファッションならでは出店者、ファンを集めてきたZOZO。しかしながら、これだけの規模になれば、やはり押しも押されもせぬ王道感が、出店者へのアピールにも必要となってくる段階かと思われます。
世界市場にアピールできる希少なコンテンツ
その視点で見ると、これほど役に立つ大会はないのです。大会のグローバルなメジャー感は格別で、ついこの間まで良くも悪くも成功したベンチャー企業と見なされてきたZOZOも、これほどの大会を提供できるほどの余力という与信効果は計り知れないものがあります。
広告・プロモーション全般を企業が行う際の狙いには、エンドユーザー、BtoCへの販促効果、ブランドアップ以上に、クライアント企業や関係者、社員向け、時には銀行、株式市場などBtoBでの効果に重きを置くケースが程度の差こそあれほとんどなのです。
その点、ゴルフというスポーツは国内外問わずビジネスと相性の良い競技とされており、実際に仕事と混然一体の興味、価値観でゴルフに対して非常に関与度が高いビジネスパーソンも多いことを考えれば、その効果は十分期待できると言えるのです。
特に、世界最高峰PGAツアー大会の冠協賛ともなれば外資系ブランドなど本国経営陣やスタッフへのアピールにもなる希少なコンテンツとなりなす。実際に今回サブスポンサー(オフィシャルパートナー)にポロラルフローレンの名もありました。さらに、海外展開まで視野に入れれば、国外の生活者に対しても非常に良いアピールになることは間違いありません。
費用対効果を計算することが非常に難しいのがスポーツ協賛です。と言うより、費用対効果はいかようにも科学的根拠をもって計算できるのですがメディア露出の量的な部分や接触の様態、何より最後は人の心に与えるインパクトまで考えればパラメーターが多く、やはり最後はその試算をそれなりの知見、見識をもった決定権者が総合的に評価しなければどうにも判断などできないものなのです。
減点主義で考えれば、どうやってもツッコミどころ満載で、現に経営者が変わり、担当者が変わる中、長年のスポーツ協賛継続を説得するため関係者がどれだけ冷や汗をかいているか知れたものではありません。
世界的なゴルフ大会を見ても、過去には渋野日向子選手優勝の直前に、女子メジャー「全英女子オープン」からリコーが去り、これはやむを得ないことだとは思いますがLPGA女子メジャー「ANAインスピレーション」の冠呼称の終了(協賛自体は継続)が発表もされました。(関連記事『渋野日向子も着ている! ビームスがゴルフを楽しくする』)
近年、日本が誇る製造業各社グローバルでの競争力低下が指摘されますが、そもそもサービス業での世界市場成功事例が極めて少ない日本産業界です。ZOZOには、常識を覆すスポンサーシップの心意気で、ぜひ世界的に認知されるブランドとしてさらに大きなビジネス上の飛躍を期待したいと思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら