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トヨタ社長の“終身雇用発言”で透けた本音 人事のバイブルがヒントに (2/3ページ)

 そうなると新卒一括採用・長期的育成と一対になっている終身雇用はどうなるのか。中西会長は5月7日の経団連の定例記者会見でこう述べている(経団連発表)。

 「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である」

 要するに「事業の盛衰が激しい時代に、これ以上雇用を守りきれない」と言っているのだ。一経営者の発言ならまだしも、経済界を代表する経団連の会長がここまで言い切ることの影響は大きいだろう。

大手企業の定年前の希望退職募集件数は昨年一年分を上回る

 これまで、日本企業は事業構造を揺り動かす転換期に何度も遭遇してきた。

 オイルショック、バブル崩壊、平成不況、リーマンショック時に「希望退職」という名のリストラが繰り返され、「終身雇用」企業から離脱していった企業も多い。特にパナソニック、東芝、NECといった電機大手は軒並み大胆なリストラに走った。

 実は中西会長の出身母体の日立製作所も例外ではない。09年3月期に過去最大の赤字を計上したが、グループ企業のリストラをはじめ本体でも転籍含みの退職勧奨や希望退職を実施してきた。中西会長の一連の発言は、そうしたリストラ実施企業を代弁するかのように自らのリストラを正当化する発言のように聞こえる。

 すでに今年(2019年)5月13日までに定年前の希望退職募集を公表した上場企業は16社、募集者数は6697人。2018年1年間の12社、4126人を上回っている(東京商工リサーチ調査)。もちろん中にはギリギリのところでリストラを踏みとどまっている経営者もいる。

 しかし、中西会長の発言が、他の企業に安易なリストラに免罪符を与えてしまい、しっかりした議論のないまま終身雇用見直し・廃止が定着しかねない危険性を秘めている。

トヨタ社長の真意は終身雇用の見直しではなかった

 一方、リストラ企業が増えたといっても、終身雇用を堅持する大企業や中堅・中小企業が少なくないのも事実だ。

 たとえばキヤノンのように欧米型の職務給に近い「役割給」の賃金制度を導入し、実力主義による昇給・昇進によって従業員の意欲を引き出す施策を展開しながら終身雇用の看板を捨てていない企業もある。欧米企業のように新卒・中途に限らず企業が求めるスキルと能力を持つ人を採用する「ジョブ型雇用」と終身雇用は必ずしも両立しないものではない。

 そうした中で、終身雇用企業の代表格であるトヨタ自動車の豊田章男社長の終身雇用に関する発言が話題になっている。

 5月13日の日本自動車工業会の会長である豊田社長が2019年度の定時総会後の記者会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入っている」といった趣旨の発言をした。

 一見、中西会長の終身雇用見直しと同じ趣旨の発言のように思えるが、当日の発言内容をよく読むとニュアンスはかなり異なる。実際には経団連の中西会長の終身雇用は難しいとの発言についてどう思うかと聞かれ、こう発言している。

 「多様化してきている。会社を選ぶ側に幅が広がってきた。他国に比べると転職はまだまだ不利。日本はなぜ今まで終身雇用ができてきたのか。雇用を続ける、雇用を拡大している企業に対して、もう少しインセンティブをつけてもらわないと難しい局面にきている。すべての人にやりがいのある方向に向いているのではないか」(MAGX NEWS「豊田章男自工会会長、『自動車を戦略産業に!!』」2019年5月13日 より)

 まず前提として日本自動車工業界の会長として発言していることに留意が必要だ。問題は「もう少しインセンティブをつけてもらわないと」と言っているインセンティブの意味だ。

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