説明には以下が記載されている。
「夜中に歩く。警官に見つかったらエチオピアの監獄に収容されてしまう。(私が)お金を払った案内する人がいた。昼間は木陰で寝て、夜歩く。4晩連続だ。各自、ビスコッティとボトルの水だけ。スーダンに着いたら家政婦として3年、リビアで2年。その間、シャワーもベッドもなく、床に多数の男女と寝て、臭かった」
こうした年月を経てイタリアに到達した。「今は、いい。とってもいい」との言葉で説明が終わっている。接続詞がない文章が、情景を前面に押し出す。
ぼくはこの絵と説明を前にしたとき、エチオピア人はアフリカでの辛い経験を記憶から排除できないのか(もちろん不可能だろう)、自分のアイデンティティーとして選んで記憶に残しているのか、と一瞬考えた。
これが「プリザーブ」なんだ。閉めるべき扉の存在だけを示したかったのかもしれない。後になって記憶が改変されないように。
文化は個人の意思で作られていく。合意によるものではない。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。