ローカリゼーションマップ

「締めるべき扉」と「プリザーブ」の関係 文化は個人の意思で作られる (3/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 説明には以下が記載されている。

 「夜中に歩く。警官に見つかったらエチオピアの監獄に収容されてしまう。(私が)お金を払った案内する人がいた。昼間は木陰で寝て、夜歩く。4晩連続だ。各自、ビスコッティとボトルの水だけ。スーダンに着いたら家政婦として3年、リビアで2年。その間、シャワーもベッドもなく、床に多数の男女と寝て、臭かった」

 こうした年月を経てイタリアに到達した。「今は、いい。とってもいい」との言葉で説明が終わっている。接続詞がない文章が、情景を前面に押し出す。

 ぼくはこの絵と説明を前にしたとき、エチオピア人はアフリカでの辛い経験を記憶から排除できないのか(もちろん不可能だろう)、自分のアイデンティティーとして選んで記憶に残しているのか、と一瞬考えた。

 これが「プリザーブ」なんだ。閉めるべき扉の存在だけを示したかったのかもしれない。後になって記憶が改変されないように。

 文化は個人の意思で作られていく。合意によるものではない。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)
安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。

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