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ソニーが新卒に「初任給730万円」、最大のカベは中高年社員の嫉妬? (3/3ページ)

 「俺より給料が高い奴が出るのはケシカラン」

 しかしながら、こうした新しい制度に対する最大の障壁となっているのは、中高年社員の感情的な反発である。新卒の一括採用で、年功序列の賃金体系を基本としてきた日本社会においては、新人に対して高額年収を提示することについて抵抗感を持つ人が多い。

 これまでも有能な若手社員に対して高い賃金を払う制度を検討した企業は少なくないが、中高年社員の反対で導入が見送られるケースが多かった。ある金融系企業では、高度人材を処遇する制度を構築したものの、部長クラスの社員が「俺より給料が高いヤツが出てくるのはケシカラン」と反対して、制度の導入はあっけなく見送られたという。

 別な形で処遇に制約を設けるケースもある。多くの著名企業がAIなどの技術を持った高度人材を求めており、採用関連のサイトを閲覧すれば、こうした人材に対して入社を呼びかけるメッセージをたくさん目にすることができる。しかし、詳細情報をよく読むと、最初の数年間は他の社員と同様、支店での経験を積む必要があるなど、その処遇は限定的であることも多い。

 結局のところ、新卒の一括採用や年功序列の賃金体系を抜本的に変えなければ、新入社員に対して思い切った処遇をするのは現実的に難しい。雇用制度を改めないまま、見かけだけの制度を作っても機能しないのは明白である。その意味ではソニーの新制度が今後、どのような展開を見せるのか要注目といって良い。

 新制度の適用を受けた社員の中から、卓越した実績を残し、関連部門のリーダーに早期抜擢(ばってき)されるような事例が出てくれば、日本の企業社会にも大きな風穴が開くだろう。逆に尻すぼみになってしまった場合には、「ソニーですら実現できなかったのだから、他の企業にはムリ」という諦めムードが蔓延(まんえん)してしまうかもしれない。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。

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