彼のビジネスをみていて意外に思えることが2つある。
一つは「知性溢れ、美しい」(アントニオ談)奥さんが大手銀行の現役社員であることだ。若き日にジュエリーの店をオープンさせ軌道にのせた場合、奥さんが経理などバックオフィスをみていることが多いが、彼の奥さんはその頃も今も銀行員である。
2つ目は、20代の2人の息子が、同じようにアルティジャーノとして父親の職場で働いていることだ。3年前からだ。地方の小さな町の家族経営の会社ならいざしらず、ミラノのような都市で成功したジュエリー店の息子は、経営学を勉強して外で修業する、デザインやコミュニケーションを勉強して自らの手は汚さない選択をする例をみる。
しかし、2人の息子たちの技量は父親の目からすれば「まだまだ」であるが、工房で手を使ってモノを作っている。確かに若い世代の一部に、職人の世界への憧れをみることがあるが、息子が両方とも親父の道を継ぐことにしたのは、アントニオの姿があまりにチャーミングだったのではないか。
まったくの想像であるが、親子4人の食卓でアントニオはやはり涙を流すのではないかと、そのシーンをぼくは思い描いた。
泣くことに抵抗がない大人の男には、そうとうに惹かれる。それをぼくはアントニオとの会話の中で初めて気づいた。
【ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。