彼の活動を聞いていると、何となく孤独な雰囲気が漂う。
「家族は?」
「4人の子どもがいる。奥さんは、ぼくの仕事の性格をよく分かってくれ、応援してくれている。とっても感謝しているよ」
この答えを聞いて、ぼくは心なしか安心した。世界中、人のいない風景ばかりを撮り歩き、自宅に帰って誰もいないのでは寂しいではないか。
彼の仕事のテーマを聞くと、多くの人は「なぜ、そんなリスキーな仕事に情熱を傾けるのか」と言ってくる。生命を危うい局面に晒すわけだし、実際に現場に出向いても撮影できないこともある。過去、撮影した画像を全て廃棄するように当局から求められた経験もある。
グレゴールに「歴史を描いていくのが好きにみえるが、どうなのか?」と尋ねると、次のようなコメントが戻ってくる。
「もちろん、そういうことに興味があるが、第一にはこない。ぼくは、幻想とも見える人工物が、今の社会の発展にどう繋がるかを追求していきたい」
グレゴールは世捨て人ではないのだ。今に生きるアーティストだ。
最後に次のテーマを聞いてみた。「孤独死」だと言う。「lonely deathは、日本でkodokushiと言うのでしょう?」と確認しながら。
「これも世界各地にある題材だが、日本で孤独死にあった人の家を片付けるサービスがあると知った。そのクリーニングをする前の光景を撮影したい。誰か詳しい人を知らないか?」
こう逆に質問を受けた。なるほど、今までのような巨大な空間ではないが、小さな人工構造物に誰もいないのも、彼のカバーする領域に違いない。
【ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。