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ノーベル化学賞の吉野彰さん「3つの壁、乗り越えてほしい」 若者にメッセージ

 吉野彰さんは自身のリチウムイオン電池開発の経験を基に、ビジネスで成功するために乗り越えなければならない3つの関門を説く。「世の中に貢献できるよい仕事をするために、若者が将来、どの分野に行っても出てくると思う」という。

 最初に経験するのが、基礎研究の段階の「悪魔の川」。ここで大半のプロジェクトが対岸まで泳ぎ切れずに脱落する、つまり研究段階で終わってしまう。吉野さんも就職後、リチウムイオン電池で成功する前に、日の目を見なかった研究を3つ経験している。

 開発研究に進むと待ち受けるのが「死の谷」。次々と問題が立ちはだかり、事業化の前にここでも大半が脱落する。吉野さんは「この段階では、なるべく人手をかけないことだ」と成功の秘訣(ひけつ)をアドバイスする。

 どういうことか。「研究者の場合、いい実験データが出るととかく会社に『人よこせ、金よこせ』と言い出す。しかし、それでは研究費が跳ね上がり、会社側は成果にうるさくなる。大半のプロジェクトがそれに耐えられず潰れてしまう」。そこで必要最小限の人数で開発を進め、事業化の道筋が見えて初めて、人材と予算をかけるのがよいやり方だという。

 最後が「ダーウィンの海」の段階。努力が実ってようやく事業化にこぎつけたものの、市場で見向きもされない段階だ。生物進化の過程で起こる自然淘汰になぞらえて、生物学者ダーウィンの名がついている。

 「(企業や消費者が)新しい物に関心があるけど買わない、という段階。先頭に立って手を出すリスクは負わない。しかし誰かが手を出すと、すぐに追いかけるようになる」。リチウムイオン電池の場合、出荷が伸び始めるまで5年ほどかかったという。

 「将来ぜひ、この3つ壁を完璧に乗り越えていただきたい」と、吉野さんは若者にエールを送る。

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