社会・その他

走り続けた零細物流が陥る“負の業界構造”とは「台風19号でも中止連絡無かった」 (1/3ページ)

 9月上旬、関東地方に甚大な被害をもたらした台風15号。その対策に民間・行政の油断があったことは、誰もが認めるところだろう。

 その際の教訓が生かされ、約1カ月後にやってきた台風19号では、上陸がほぼ確実になった地域を中心に、早いうちから防災グッズや非常食が売れた。また、鉄道や小売りなど多くの業界では、事前の臨時休業や営業時間の短縮、計画運休を決定。24時間営業をうたうコンビニまでもが、多くの店舗でその明かりを消した。

 そんな中、物流業界でも佐川急便やヤマト運輸などの大手が、台風が通過する地域の一部で、集荷・配送に関する業務の停止や遅延を発表。各大手メーカーの自社便でも、商品の配送を早々に取りやめる動きがみられた。

 これにより、世間に「物流までもが止まった」という雰囲気すら漂った台風19号だったが、その一方で、実は「あの日、暴風雨の中を走っていた」とするトラックドライバーが少なくないことが、ドライバーへの現場取材で分かってきた。

 災害時にこそ、その存在の大きさを痛感する物流。だが、こうしてモノを運ぶトラックドライバーにも、身の安全を確保する権利がある。世間が気付かぬところで繰り広げられる「安全」と「仕事」の駆け引き。台風で見えた物流業界の構造問題に迫る。

 小売りや交通機関、相次ぎ休止

 今回の台風19号で、早々に臨時休業や営業時間の短縮を発表したのは、コンビニやスーパーなどの小売業から、鉄道や空の便、各高速道路などの公共交通機関、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのアミューズメント施設と多業種に渡る。

 こうして、過去にないほど多くの企業や機関が事前に休業を決定した背景には、19号が上陸前から「猛烈な勢力」と繰り返し報じられていたことに加え、想像をはるかに超えた被害や混乱をもたらした台風15号を、各社が教訓として捉えていた点があるからだろう。

 顧客はもちろん、自社で働く従業員の安全にも配慮した形となった今回の各社の臨時休業に、国内全体の企業倫理の向上を感じた人も多いはずだ。

 また、今回の災害が突発的な地震ではなく、進路をある程度見守ることのできる台風だったこと、そして上陸が土曜日だったことで事前調整と自宅待機ができたことも、混乱を最小限に抑えられた要因となったと言えるだろう。

 中小ドライバー「台風でも中止連絡無かった」

 そんな中、佐川急便やヤマト運輸、日本郵便などの大手も、先述通り、台風の進路に当たる一部地域への集荷や配送の休止・遅延を事前に発表。各大手メーカーの自社便も相次いで配送を休止し、台風に備えた。

 「止まれば国の経済が止まる」とも言われる物流において、大手の事前の一部サービス休止の発表は、一般家庭のみならず、業界全体をも驚かせるものとなった。

 ところが、こうした大手企業による「休止ムード」の裏で、筆者が運輸の現場で取材したところ、「あの日、台風の中ハンドルを握っていた」と証言するトラックドライバーは実は少なくなかった。その声の主のほとんどは、中小零細の運送会社に所属するドライバーだ。

 台風当日、大阪から東北方面に一般貨物を運んだ男性ドライバーは「荷物が軽かったから風に煽られた。高速は止まっているし、下道(一般道)の状況が不明確だったのは不安だった」と話す。

 関東エリア内で即席めんを配送した男性ドライバーは「(台風当日は)道路が部分的に冠水していて危険な状態だった。運転手の生命よりメーカーからの指示の方が大事なのか」と憤る。

 トラックはその車体の構造上、乗用車以上に横からの風を受けやすく、道路に出ればいつ横転してもおかしくない。また、タンクローリーなどの場合は、移送物が毒物や高圧ガス、危険物であることもある。そんなトラックが事故を起こせば、トラックドライバーだけでなく、周囲の道路使用者をも危険にさらすことになるのは想像に難くない。

 台風15号の際、やはり実際にタンクローリーでガソリンや軽油を移送していたあるドライバーは「出社直後にとんでもない強風が吹いていたため、運転に危険を感じた。会社からはサービスエリアへの一時避難を勧められたものの、移送中止の連絡は来なかった」と、その現状を訴えた。

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