発足10年目の節目のシーズンに、日本の女子プロ野球が大きな岐路に立たされている。運営法人が11月1日、所属する選手71人のうち36人の退団を発表。なかには「美しすぎる女子野球選手」として話題になった加藤優(24)や、女子野球ワールドカップ(W杯)で3大会連続最優秀選手(MVP)に輝いた里綾実(29)らも含まれていた。経営難が続く中で大幅なリストラを図った形だが、来季以降のリーグの体制は退団発表から1週間が過ぎても明らかにされておらず、先行きは不透明だ。
「選手は社員」の契約見直し
11月8日、京都市のわかさスタジアム京都。女子プロ野球のホームグラウンドともいえる球場で、加藤や里、創設当初からリーグを支えてきた小西美加(36)らが参加して退団試合が行われた。31人の選手は2チームに分かれて対戦。試合が終わると全員がマウンドに駆け寄り、グラウンドに別れを告げた。
育成球団も含め4球団からなる日本女子プロ野球リーグ(JWBL)は、全ての球団を健康食品会社「わかさ生活」(京都市)が運営。選手は同社と社員契約を結んでプレーしてきた。
だが関係者によると、来季に向けた交渉の過程で契約の見直しが提示されたという。新たな契約内容は、シーズン中は野球に専念するため固定給プラス出来高払いとする一方、オフ期間は選手としての給与はなく、社員として働くか別の働き先を見つける-というもの。条件面で折り合わなかった選手のほかベテランには戦力外通告を受けた選手も多く、これが大量退団の要因となった。
もちろん、退団後もプレー継続を望む選手は少なくない。「みなさん、プロ生活4年間、本当にお世話になりました。これからも野球を続けていきますので、ご声援をお願いします」。退団試合の翌日にJWBLの公式ホームページに掲載された動画で、加藤はこう挨拶した。
「手弁当」の限界
JWBLを運営する日本女子プロ野球機構は、わかさ生活が3億円を出資して平成21年に設立。翌年に2球団で始まったJWBLは球団再編を経ながらも、25年から4球団体制で続けられている。
しかし、1社単独運営による負担は大きく、機構によると同社はこれまでに約100億円を投入。1球団あたり年間2億~2億5千万円のコストがかかる一方で、球団ごとの年間売り上げは約5千万円にとどまるのが実情という。これまで選手のサイン会や写真撮影会、試合後の勝利チームによるダンスなども行ってファン層拡大に努めてきたが、赤字運営の解消には至らなかった。
今年1月の創立10周年の記者会見では、同社社長で機構名誉理事の角谷建耀知(かくたに・けんいち)氏(58)が「覚悟の一年になる。今年が最後という気持ちでやることが大事」と強調。今季は春季リーグは京都、夏季は東海、秋季は関東と開催地を固定して移動費を削減したが、夏季リーグ終了時の観客数は前年同期の3分の2の4万人余にとどまった。機構は8月下旬、緊急に記者会見。来季以降の球団運営に参入する企業や団体を募ったが、これまで具体的な話し合いにまで進んだケースはないという。
今度こそ継続を
ただ、高校や大学で野球に打ち込んだ女子選手たちが卒業後にプレーする受け皿として、JWBLが果たしてきた役割は決して小さくない。10年前には5校だけだった女子硬式野球部のある高校は、来年度創部予定も含めると37校に増加。その中にはJWBLの元選手が創設に携わったり指導者を務めたりしたところも多く、裾野の拡大にも貢献している。
運営が厳しい中でも機構は9月25、26日、来季へ向けた入団テストをわかさスタジアム京都で実施。1次選考の通過者ら約30人が参加し、8人が合格した。その一人の三浦柚恵(17)は女子野球部のない神奈川・藤沢清流高で、男子野球部員に交じって技術を磨いてきた。女子は公式戦に出場できないことは承知の上だったが、「女子プロ野球選手になるため、3年間頑張ってきた」という。
国内では終戦からまもない昭和25年に4球団で結成された日本女子野球連盟が、女子プロ野球を運営したことがあった。だが資金難もあり、わずか2年で活動を停止している。定着に向け、正念場を迎える日本の女子プロ野球。機構は来季の運営体制について具体的な説明をしていないが、2球団で継続する可能性が高いとみられる。関係者は「新しい形の中で、それでもやろうという若い選手が残った。今後も女子プロ野球を継続していくための再スタートだ」と説明した。