消費税率が10%に上がったことで、輸出を装った不正な還付申告や金塊の密輸入が増える恐れがあるとして、当局が警戒を強めている。前回の増税で5%から8%になった平成26年以降に不正が急増した経緯があり、専門チームを発足させるなど対策に注力。担当者は「税率が上がれば不正のうまみも増す。水際対策や摘発に力を入れる」と話す。
事業者は販売時に顧客から受け取った消費税から、仕入れ時に自身が支払った消費税を差し引いて納めている。一方、輸出する商品に消費税はかからないため、国内での仕入れ時に負担した分が還付される「輸出免税」という制度がある。
国税庁によると、26年の増税以降、高級腕時計や宝飾品を輸出したように見せかけ不正還付を狙う事例が目立った。
脱税事案の告発のうち、消費税の不正還付は26年度に5件(総額約9700万円)だったが、昨年度は未遂も含め16件(総額約19億900万円)に上った。脱税全体の告発件数や金額が減少傾向にある中、際立っている。
「もはや、ただの詐欺だ」。仕入れや販売自体をしていないのに取引があったと装い還付申告する事例もあり、国税幹部は憤る。国税庁は対策として昨年、東京、大阪の両国税局に、不正還付が疑われる事案を中心に消費税関連の情報収集や税務調査を企画するチームを発足させた。
金塊の密輸入も増えた。香港など、購入時に消費税がかからない国や地域で調達し、無申告で国内に持ち込んで輸入時にかかる消費税を免れれば、国内で売却した際に受け取る消費税分がそのままもうけになる。
財務省によると、税関が25年に摘発した件数は12件(押収量133キロ)だったが、29年は1347件(同6277キロ)に。30年は4月に罰則が強化されたことなどから1088件(同2119キロ)に減少したものの、同省の担当者は「金相場自体が近年高止まりしているので、今後も気を付ける」と話している。
【用語解説】消費税の還付
事業者は、売り上げ時に客から預かった消費税から仕入れ時に支払った消費税を差し引いて納めている。仕入れた商品が大量に売れ残るなどして差し引きがマイナスになるとその分が、商品を輸出する場合は仕入れ時に支払った分が、税務署に申告するとそれぞれ還付される。訪日外国人客が免税対象品を買って持ち帰るのは輸出とみなされる。国税庁によると、平成29年度は個人事業主と法人で計約17万9千件の還付申告があり、約4兆1100億円が還付された。