社会・その他

“よそもの”の力で熊本は変われるか 衰退する「地方路線バス」会社の挑戦 (1/3ページ)

 久しぶりに訪れた熊本の中心市街地は、休日だったこともあるのだろうが、多くの人でにぎわい、震災の傷跡も癒えつつあるように見えた。ただ、街のシンボルである熊本城を見上げると、修復工事の囲いと巨大なクレーンがそびえたっていて、まだ復興は途上なんだな、ということが分かる。妻が熊本出身であるわが家も、この城の一口城主の認定書を持っているが、途上ながらも以前より修復が進んだ熊本城を見るのは何となくうれしい。

 2019年秋、この街に新しい大規模複合施設がオープンした。「サクラマチクマモト」というこの施設は、延べ床面積16万平方メートル超、売場面積は2万8000平方メートル。大型商業施設としてはテナントが149店舗、加えてシネコン、音楽ホールを備え、バスターミナル、ホテル、オフィス、高層マンションも併設されている。地方都市としては屈指の規模となる再開発であり、もともとは「熊本交通センター」というバスターミナルと百貨店のあった場所を、周辺区画と併せて再開発した施設だ。

 これだけだと、ただの地方都市の大規模再開発の話で何が面白いの? と思われるだろうが、この再開発は実はちょっと珍しい事例である。地方の大規模再開発の主体は、イオンやJR各社というのがよくあるケースなのだが、この再開発の主体は九州産業交通ホールディングス(HD)という地方のバス会社であり、中心市街地の活性化と地域公共交通の持続可能性の追求を同時に模索する画期的な取り組みなのである。

 「クルマ社会化」で衰退する地方都市

 地方のバス会社にとって、00年代以降は苦難の時代で、多くが経営破綻、法的整理に追い込まれた。

 その主な要因が、住民の移動手段が車というパーソナルな乗り物にシフトしたことによる「公共交通離れ」であることは言うまでもない。交通弱者(運転免許のない中高生や高齢者)を除いたほとんどの人が車で移動するようになって、利便性に劣る公共交通は「乗客が減るから本数を減らす、本数が少ないので不便で利用者が減る……」という負のスパイラルに陥ったからだ。

 そして、公共交通(特に市内交通の中心であるバス)の衰退は、地方都市の中心市街地の衰退にも直結していた。中心市街地の「中心」たるゆえんは、住民の移動の中心であることだ。かつて域内公共交通の中心であったバスターミナルが交通の結節点としての存在意義を失うと、その周辺に発展した中心市街地はその多くが同時に衰退せざるを得なかった。地方公共交通と中心市街地のこうした状況を踏まえると、サクラマチクマモトの取り組みは極めて異例であることが分かるはずだ。熊本という地域もクルマ社会化していることは間違いなく、そうした中でバスターミナルでの大型再開発はとてもチャレンジングな取り組みに見える。

 「交通のターミナル」以外に必要なものを探せ

 再開発の中心となった九州産交HDも、実質的には一度、経営破綻している。03年には産業再生機構に支援を要請し、その後、エイチ・アイ・エス(HIS)の支援を得て、現在はHISのグループ会社となっている。事業を再生した九州産交HDではあるが、公共交通の利用者の低迷という厳しい事業環境自体が改善したわけではなく、抜本的なビジネスモデルの変革を必要としていることには変わりはない。そうした中での“起死回生”の策が、バスターミナルと周辺の中心市街地という場所自体に、来訪してもらうための理由を作り出す、というある意味「正統派」の街づくりプランなのだ。

 公共交通が衰退した地方都市の多くは、クルマが主要な移動手段である。そのため、クルマ通りの多い幹線道路の通行量が、中心市街地の人通りよりも多くなってしまう。結果として郊外ロードサイドの大型商業施設に中心市街地の機能が分散してしまっている。中心市街地がその存在意義を保つためには、かつてのような「公共交通の中心」であるだけではもう足を運んではもらえない、という事を認識することが重要だ。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus