働き方ラボ

「私の履歴書」の武勇伝を真似るな 失言・不謹慎はどこまで許されるか (1/3ページ)

常見陽平
常見陽平

 不謹慎・豪快話の連発

 長年にわたり日本経済新聞の名物コラム「私の履歴書」を「面白がって」読んでいる。「愛読している」でも、「面白く読んでいる」でもない。「楽しみにしている」と書けばよいのだろうが、「面白がって」読んでいるというのが正しい。

 なんせ、いかにも「人生あがり!」という感じの経営者が、「俺の成功体験」を語るコラムである。自分とは世界が違う。しかも、何を言っても美化されてしまう。とはいえ、登場する方がどのような人生を歩んできたのかには興味があるし、ヒントをもらうことはできるので、毎日読んでいる。

 2020年の1人目は日本証券業協会会長であり大和証券の社長、会長を務めた鈴木茂晴氏だ。毎年、1人目は「読んで元気が出る人」が起用されることが多い。2013年は作家の渡辺淳一氏で、女性遍歴の不謹慎な話だらけで唖然とした一方、「日経の文化欄に渡辺淳一が載る年は景気が良い」という法則があると聞き、しょうがないかと思った。2015年は球界のレジェンド王貞治氏だった。

 これらの方に比べると、鈴木氏は一般的な知名度は低い。ただ、日々、不謹慎な話、豪快な話の連発で「大和証券も、日経も大丈夫だろうか?」と心配になるレベルである。

 具体的に列挙してみよう。インサイダー取引に風説の流布、顧客を罵倒してプライドを傷つけて買わせる、顧客に嘘をつく、暴力団への営業、バイク通勤にその不法投棄など、「今なら不祥事」事案のオンパレードだ。もちろん、すべて「当時はそれが当たり前だった」という言い訳が記されているし、彼だけが悪いわけはないのだが。

 ・何でもありの時代で、お客さんとの会話で「これは極秘の情報です」とか「絶対に確実です」など当たり前だった。インサイダー規制も風説の流布もない。今ならみんな法令違反で一発アウトだ。(第9回 2020年1月10日付)

 ・菓子店の社長いわく「この銘柄の魅力はわかるが、今はカネがないからなあ」。これを聞いた越田さん「社長、ないのはカネではなく度胸でしょう」「君、失礼なことを言うな!」と顔を真っ赤にした社長だったが、結局買い注文を入れてくれた。「伝説の営業マンはこんなセールスをするんだ」とぼうぜんとした覚えがある。(第10回 2020年1月11日付)

 ・黙って聞いていた先輩社員が受話器に向かって放ったひと言を、今も覚えている。「お客様、いったん入った買い注文を取り消すと、大和全店のコンピューターを逆回ししなくてはなりません。大変なことになります」。もちろんウソだ。必死の言い訳が功を奏し、何とか注文キャンセルはなくなったが、「全店逆回し」は、しばらく支店内で流行語になった。(第11回 2020年1月12日付)

 ・その顧客の自宅に出向く。すぐに覚った。「これはヤバいぞ」。出てきた初老の男性のもとには先客がいた。丸刈りで正座し、「戻って参りました」などとやっている。刑務所帰りだとすぐわかった。金融債2000万円の保有者は、地元のヤクザだったのだ。今ならあり得ない。(第11回 2020年1月12日付)

 ・禁止されていたのだが、バイクを通勤に使うとラクだった。中古だからよく故障し、ついに壊れたバイクを海岸に捨てた。今なら不法投棄にあたるだろう。ナンバープレートを外して捨てたからばれないだろうと思っていたのに、ほどなくバイクを買った店から電話がかかってきた。ナンバーは外したが、店のシールが付いたままだった。万事おおらかな時代だった。(第11回 2020年1月13日付)

 この手の話を聞いて、あなたはどう思うだろうか? 「昔はよかった」「いまは、ポリコレ圧が強すぎ」「不謹慎狩りはいかがなものか」などと思うかもしれない。まあ、成功者による「昔は俺も悪かった」話にも聞こえるし、痛快なバカ話に胸をおどらせる人もいることだろう。

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