働き方ラボ

渾身のスピーチや企画書がまさかの“空回り” 伝わらない理由はそこにある (2/2ページ)

常見陽平
常見陽平

 「誰も見たくない」という前提

 「でも、お高いんでしょう?」と不安になる人もいるだろう。1,500円+税で売られている他、なんと、Kindle Unlimitedにも入っているから、会員は今すぐ読むことができる。

 本書の主張は明確だ。なぜ、あなたの文章は伝わらないのか? それは「書きすぎ」だからだ。伝えたい内容を詰め込みすぎているからだ。気づけば贅肉だらけの文章になってしまっているのだ。結果として読みにくくなってしまうのだ。「言葉ダイエット」とは、言葉の贅肉を削ぎ落とす行為なのだ。

 なぜ、ビジネス文章はグダグダと長くなってしまうのだろう? 著者は「読んでもらえる前提でいるから」「あなたが真面目で、能力が高いから」だと喝破する。

 特に前者は、言われてみると当たり前なのに、いつの間にか認識しなくなるのではないだろうか。昔の漫画に出てきそうな、個人宅に入り込み、買ってくれるまで帰らないような、押し売りのようなことを、いつの間にかやっていないか?

 新人コピーライターはまず「広告なんて誰も見たくない」という前提を叩き込まれるという。芸能人が出て、売れているアーチストがBGMを演奏している広告ですら、皆、見たくないのである。この「誰も見たくない」前提で考えるという発想は有益だ。

 「あなたが真面目で、能力が高いから」という指摘にも深く頷いてしまう。前述した、新卒採用の世界での「難しいことを言っているが、学生にはまるで伝わらない会社説明」も原因の一つは、これだ。学生に企業を理解してもらい、就職先として興味を持ってもらうための説明であるにも関わらず、社内からの「正しく我が社を説明していない」という圧に屈してしまっている。真面目にとりくみ、専門用語を多用し、学生のためではなく、社内にアピールするための説明になってしまっているのだ。

 具体例が満載

 「ひとつの文には、ひとつの内容だけを書く」「1文は40~60文字以内」「抽象論禁止」「繰り返し禁止」「ムダな敬語禁止」「表記を統一しよう」「こそあど&接続語の連発禁止」などのノウハウも具体的でわかりやすい。しかも、「言葉ダイエット」の具体例が満載だ。通る企画書、エントリーシートをつくるためのヒントに満ちている。

 気鋭のコピーライターによる、書き方の教科書のようで、この本は「伝えたいことは何か」「どんな価値を提供するのか」という本質を問いかけるものである。これはクリエイターと言われる人への誤解を解く本でもある。何かすごいものをつくる存在ではなく、物事を整理し、どうやったら伝わるかを考え抜く。これもクリエイティブの機能だ。

 「言葉ダイエット」という概念を紹介する文章なのに、グダグダと書いてしまった。いいたことはたった一つ。この春、あなたも「言葉ダイエット」を始めよう。

常見陽平(つねみ・ようへい)
常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら

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