先生のために全てを犠牲にするブラック職場-。そんな国会議員秘書の働き方改革に自民党の若手議員が乗り出した。ITの積極活用やコンサルタントの導入で、残業抑制と休日取得を実現。人材が集まる魅力的な議員事務所をつくり、仕事効率化へ好循環を目指す。河井案里参院議員の陣営による公選法違反事件でも公設秘書の役割が注目される。足元からの永田町改革は緒に就いたばかりだ。
「議員の仕事は無尽蔵。秘書も忙しい。でも現状を野放しにできない」。昨年11月、国光文乃氏(40)=衆院茨城6区、当選1回=は永田町の働き方改革を主題にシンポジウムを主催し自身の取り組みを紹介した。医師で厚生労働省技官から転身した異色の経歴を持つ。
実践したのは労働環境改善を手掛けるコンサルタントを交えた「カエル会議」の開催だ。「変える」と「帰る」を掛けた。各秘書が悩みや改善点を付箋に書き、優先順位を付けて会議で共有。毎日の業務報告は互いにメールでやりとりし、地元から寄せられる要望への対応漏れがないかチェックする仕組みも作った。
結果、2019年の残業時間は18年に比べ3割減少。要望への対応件数は4割増え、政治資金パーティー券の売り上げも伸びた。国光氏は「風通しが良くなり、生産性が上がった」と胸を張る。
永田町では、議員と秘書の関係が政治生命すらも左右する。17年には豊田真由子氏が「はげ」「死ねば」と暴言を吐いた音声が報じられ、離党。昨年は菅原一秀前経済産業相の元秘書がパワハラや給与の未払いを訴えた。河井氏陣営の事件では、広島地検が車上運動員の報酬の支払いを担当していた公設秘書から聴取している。
筑波大が16年3、4月に議員秘書を対象に実施したストレスチェックでは、有効回答144人のうち33人(22.9%)が産業医との面談を推奨される高いストレスを受けていることが判明。標準値の10%に比べ2倍に当たり、職場の人間関係や仕事量が影響していた。
衆院事務局によると、秘書の労働実態を一元的に把握できるシステムはない。残業上限を原則として月45時間と定めた改正労働基準法が4月から議員事務所にも適用されるとの見方があり、改革は待ったなしだ。
NTTドコモ出身の小林史明氏(36)=衆院広島7区、当選3回=の事務所はIT技術を駆使する。地元と東京事務所の打ち合わせはウェブ会議。省庁資料はデジタル化し、クラウドサービスで事務所の共有を図る。同僚議員からはノウハウ伝授の依頼が相次ぐ。小林氏は「コミュニケーションの良い職場かどうかが重要だ。ストレスを減らす改革を波及させたい」と語った。