社会・その他

ロシアスパイ事件 背景に情報技術覇権めぐる争い激化 米に依存しないシステム構築急ぐ

 次世代通信規格「5G」の開発競争など「情報技術」をめぐる覇権争いが世界的に過熱するなかで発覚した「ソフトバンク」元社員によるロシアへの情報漏洩(ろうえい)事件は、日本を舞台に最先端技術へ触手を伸ばすロシア諜報機関の姿を浮き彫りにしている。ロシアは安全保障の観点から米国に依存しない国内完結型のインターネットシステムの構築を急ぐ。最先端技術を狙うスパイ活動は今後も巧妙に続くとみられ、日本側は官民での対策に迫られそうだ。(加藤達也)

 漏洩した情報は電話基地局など通信設備の設置作業を省力化できる手順書など。顧客情報は含まれないことから「機密性は低い」(ソフトバンク)との見方があるが、国家ぐるみで技術を狙う戦略の一端だった可能性があり、警察幹部は「国際的にも安穏としていられない事件だ」と言う。

 ロシアは2016年、サイバー安全保障の指針「情報安全保障ドクトリン(原則)」を改定した。東大先端科学技術研究センターの小泉悠特任助教によると、中核は「米国のシステムと完全に分離可能なインターネットの確立」という。

 小泉氏は「インターネットなど米国依存の情報通信体系は有事に断線されれば国家機能が停止するもろさがある。平時に情報が米側に漏れる恐れもあるとして、安全保障の観点から国内完結の通信体系を急いでいる」と指摘する。

 ドクトリン貫徹に向け、ロシアは高速大容量の次世代通信規格5Gの導入を急ぐ。ただ5Gには多くの基地局が必要だが、ロシアは開発、設置で出遅れた。

 今回の漏洩事件の標的となった元社員は、基地局網と稼働用システムの両面で、ロシアの需要を満たし、将来的には日本をしのぐ技術の開発に“貢献”していたかもしれない。

 スウェーデンでは、19年2月、最先端の情報通信技術に携わる同国のハイテク産業従業員が外交官に偽装したロシア対外情報庁(SVR)のスパイに、17年から情報漏洩していた事件を摘発した。

 北欧には5G関連製品の出荷シェア首位のエリクソンと、3位のノキアがしのぎを削る。エリクソンは地上固定設備では世界最大規模のシェアを誇り、国家の情報通信・管理政策に深く関与する。米国防総省は排除した中国・華為技術(ファーウェイ)の代わりに北欧系の活用を準備。ロシアにとっての“研究価値”は高まっている。

 スウェーデン当局はSVRのターゲットが「外国勢力の間で需要が高いタイプの機密情報を扱っていた人物だ」と明かしており、今回の事件と背景が同じだった可能性が高い。

 今回の事件で日本の警察当局は、SVRのうち科学技術を専門に担う指揮系統「ラインX」が動いたものとみている。

 ロシアが専門スパイを投入して自国の情報通信技術開発の遅れを取り戻し、ドクトリン完遂に向けて関連技術を幅広く手当たり次第に集めているのであれば、ソフトバンク事件は氷山の一角ということになる。日本は官民を問わず、情報の保全態勢の見直しを迫られている。

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