このときやりがちなのは、「顧客の動向を分析するために必要なデータとは何か?」を深く考えずに、店内のあちこちにカメラを設置して、お客さんの行動を観察することです。いろんな角度からお客さんの動き方を撮影したデータを収集しておけば、AIが人間では気が付かないような購買行動の傾向を見出してくれるかもしれない。そういう期待があります。
しかし、AIにお客さんの動向を分析させたいなら、「お客さんがどの商品とどの商品で迷い、最終的にどの商品を購入したか」という一連の様子が撮影されていなければなりません。
AとBというチョコレートがあり、Aの売り上げのほうが高いとします。このとき、お客さんはAとBで迷いながら選んでいるのか、真っ先にAを選んでいるのか、Bを一度は手に取ったけど、パッケージを見てからAを選び直しているのか。さらに、その購買行動には世代や性別による違いは見られるのか。
そういった重要なポイントがデータとして取得できていなければ、AIが顧客の動向を精度高く分析することはできません。単に店内を撮影しておけばOKというわけではないのです。
第3次AIブームをしぼませてしまわないために
だから、「うちには大量のデータがあるから、これを使ってAIで何かできませんか?」と言われても、AI開発者は困ってしまいます。「AIで何がしたいのか」と「それを実現するための適切なデータが揃っているか」。この両輪が用意されていなければ、AI開発はうまくいきません。
とは言え、AI開発に慣れていない方にとって、その両方を初めから設定することは困難です。ですので、まずは「AIでしたいこと」を具体的に考え、「それを実現するために、どんなデータが必要だろうか」という仮説を立てて、AIベンダーにご相談いただくと、スムーズにAI開発の検討を深めていくことができます。
AIベンダーはそういった「依頼時の基礎知識」を世の中に対してもっと発信していく必要があります。また、開発を依頼する企業も自ら積極的に情報収集しAI開発を正しく理解することで、お互いのすれ違いの広がりを防ぐことができます。AIは、業務の効率化や売上の向上など、大きな可能性を秘めています。それを社会全体で上手に活用していくためにも、そういった発注者・受注者間のすれ違いの広がり、ひいては第3次AIブームの衰退を食い止めることができるのです。
大事なことなので繰り返します。
AI開発には大量のデータが必要ですが、「データがあれば必ずAIが作れる」わけではありません。「自分たちがAIを使ってやりたいことに適したデータ」がないと、その企業のビジネスにとって役に立つAIは作れないのです。
言い換えれば、AIも人間と一緒で、成績を上げるためには、単にひたすら勉強させてもダメで、どの学校に受かりたいのか、そのためにはどの教科でどの程度の点数を取らなければならないのかを定め、その目標を達成するために適した「質の高い教材を適量」与えてあげなければならないのです。
第3次AIブームを一過性のブームに終わらせず、日本企業の競争力向上につなげていくためにも、今回の「データ」に関する話は、ぜひ覚えておいてほしいと思います。
【仕事で使えるAIリテラシー】は、AI開発、AI人材の育成・採用を手がけるSIGNATEのデータサイエンティスト・高田朋貴さんが、ビジネスパーソンとしてAIを正しく理解し、活用する方法を解説します。アーカイブはこちら