「最初から全力投下」のはずだった黒田バズーカ
最近で記憶に残っている「戦力の逐次投入」に関する戦略としては、黒田日銀総裁が2013年4月に発表した「量的・質的金融緩和」導入です。これに際して黒田総裁は「以上の施策は、これまでとは次元の違う金融緩和です。まず、第一に、戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じたということです」と述べました。
インパクトの強さから「黒田バズーカ」と呼ばれている金融政策です。「戦力の逐次投入をしない」と宣言しているところに一気にやるんだという「意気込み」は伝わりますが、そもそもこの戦略の内容で「一気に解決する」かどうかはわからないのです。
日銀は2014年10月に「追加」金融緩和を発表します。残念ながら文字通り「逐次」投入をし始めてしまいます。
その後も色々と追加や変更を繰り返していますが、2016年には相次ぐ金融政策の変更について黒田総裁は「戦力の逐次投入を行わないという考え方は一貫している」と発言してしまっています。「逐次投入」という言葉の意味が変わってきてしまったようです(笑)
「逐次投入」での敗北を回避する戦略とは
ここで黒田総裁を批判するのが目的ではありません。「最初から全力投下」という戦略をとれば「戦力の逐次投入」による敗北を避けることができるというのは机上の空論でしかないということです。「相手を完全に叩くことのできるための戦力を計算することができる」という不可能な前提に立ってはいけません。ましてや、本当に「全資本を投下」などはできません。
ここから我々が学びたいのは「戦力の逐次投入」による敗北を避けるための戦略とは「最初から全力投球」ではなく、「適切な変更・撤退」を考えることだということです。
戦力の逐次投入を避けた好例として、インテルの半導体メモリー部門が挙げられます。1980年ごろからインテルの半導体メモリー部門は日本企業との強烈な競争にさらされていました。85年ごろに日米のシェアは逆転するのですが、この時点ですでにインテルは「撤退」という方向で動き始めていたといいます。そして、マイクロプロセッサー分野へと転換し、そこで大きな成功を収めることになります。
戦略は「逐次ゼロベース」で練る
戦力の逐次投入のいけないところは、「逐次」判断する機会がありながら、一度決めた戦略を見直すことなく、何も考えずに「投入」という判断をし続けることです。「第27回リスクゼロよりオプションB」でも扱いましたが、日本人は「ゴールの変更」や「撤退」を恥と考えて避けようとする傾向があります。大切なのは「逐次ゼロベース」で、次の戦略を素早く検討することなのです。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら