「鬼滅の刃」や「真・三國無双」にも
こうして筆文字のフォント製作に本格的に乗り出すことになる。
翌2007年には、テレビゲーム「真・三國無双」に昭和書体の筆文字フォントが使われ、世間に知られるようになる。以後、徐々に知名度を高め、2017年には、ドラマ「陸王」で法被や競技用シューズのパッケージに使われ、大きな反響を呼んだ。
現在大ヒットしている「鬼滅の刃」でもアニメ、グッズに昭和書体のラインナップから「銀龍書体」「陽炎書体」「闘龍書体」などが使われ、ファンの注目を集めている。
書家の綱紀さんが、この13年間に書いた筆文字は合計約40万字にものぼる。84歳になる今も1日に50字を書き続け、新たな書体を生み出している。
「筆文字フォントを購入するのは、デザイナーや看板の施工業者さんが大半です。フォントがどこでどう使われているのかは、私どもはわからないのです。街で見かけて、これはウチの書体だ! こんなところにも使われていたんだ、と驚くことがよくあります(笑)」
昭和書体のフォントは、意外な場所でも使われている。
「最近は終活関連の展示会にも出展しているのですが、お寺の方が購入されるケースが増えています。昔と違い、今の若い住職さんは筆で文字を書けない人が多いのです。卒塔婆や墓石への記名は筆文字が原則ですので、住職さんがフォントを購入して印刷していると聞いています。また、花屋さんも葬儀の供花に添える名札に使っているそうです」
「筆文字には表情がある」
時代が移り変わったことで、逆に貴重な存在になった筆文字。書家の綱紀さんは、「筆文字には表情がある、気持ちを伝えることができる」という。かすれやにじみ、筆の勢いによって様々なイメージを形にして表現できる。デジタルでは伝わらない、人間味を持つところが筆文字の魅力でもあるそうだ。
「昔に比べてパソコンを使う人が多くなりました。そういう時代だからこそ、筆で書いた文字が新しく見えるのかもしれません。アニメや漫画に親しんでいる若い方には、きっと新鮮に映るのでしょう。古い物の価値を再発見するという意味では、昨今の古民家のブームにも通じるところがあると思います」
時代とともに流行が移り変わるのは、書体の世界も同じだ。古い物が見直されて注目を集めるようになった筆文字。日本古来の書の文化をフォントという形で残していく活動は、今後も続いていくに違いない。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))