乗客が急な雨に困らないよう、駅で傘を貸し出す鉄道会社が増えている。傘は、電車内で多い忘れ物の一つ。レンタルにすれば忘れ物の傘も減るとの逆転の発想で、管理する駅員の負担を軽減する狙いもある。ただ、貸し出しを無料にすると返却率が低くなる傾向にあり、事業が廃止に追い込まれたケースも。最近は1本数十円で借りられる有料サービスが主流のようだ。(石橋明日佳、江森梓)
減らない忘れ物
阪神電鉄は6月15日、大阪や兵庫の計39駅で傘の貸し出しサービス「アイカサ」をスタート。スマートフォンに専用アプリをダウンロードした上で、傘を保管する「スポット」に表示されるQRコードをスマホで読み取ると、開錠されて傘を使える仕組みだ。利用料は1日70円(7月31日までは無料)。
南海電鉄でも昨年から大阪・難波駅やその周辺で、有料で貸し出すサービス「チョイカサ」の実証実験を行っており、10月から貸し出しエリアを広げて事業を始める。料金は時期によって変動しており、現在は1日90円で借りられる。
背景には、減らない電車内の傘の忘れ物がある。集計時期は異なるが、阪神では昨年7~12月に約5500本、南海では平成28年度に約1万3千本届けられた。多くが回収されることなく廃棄されている状態だ。
阪神の担当者は「お客さまに喜ばれるだけでなく、忘れ物を管理する駅員の負担軽減にもつながる。取り組みが広がることを期待したい」と話す。
環境問題考えるきっかけに
駅での傘の貸し出しサービスはこれまでもあったが、その多くは無料で行われていた。ただ、返却率が低く採算が取れないケースがほとんどだ。
名古屋市営地下鉄では昭和37年から寄贈された傘を駅で貸し出すサービス「友愛の傘」を実施。これまで計約13万6千本が寄付されたが、壊れたり返却されなかったりして、現在残っているのは千本にも満たないという。
北海道函館市では、函館商工会議所などが北海道新幹線開業に合わせて平成28年から駅などで無料での貸し出しを行っていたが、返却率が想定以上に低く、翌年に中止となった。
阪神電鉄でも、28年度から無料で貸し出していたが返却率は10%と低く、アイカサの導入に合わせて終了することになった。
アイカサやチョイカサでは、料金をクレジットカードや電子マネーで支払うことにしており、返却しなければ上限付きで延滞料金が加算される。この仕組みによって、傘はほぼ返却されるようになった。
南海の担当者は「ビニール傘でも買えば数百円かかる。使わない傘が増えるよりは、数十円を払って借りる人は一定いると思う。傘を使い捨てしないよう、環境問題を考えるきっかけにもなれば」と話している。