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「数十年に一度」の大雨が「毎年」降るカラクリ (1/2ページ)

苅野進
苅野進

 第32回 「数十年に一度」の雨が「毎年」降っている

 7月に九州地方を襲った豪雨に際し、「大雨特別警報」が発表されていました。大雨特別警報とは「数十年に一度」の大雨が予想される時に出されるものです。みなさんの感覚でも「最近では毎年、しかも年に数回は発表されている」と感じていらっしゃるのではないでしょうか。実際、2013年の制度開始以来、大雨特別警報は毎年出され、年間の発令ペースは平均2回だそうです。

 今回は、「数十年に一度」の雨が「毎年」降っているカラクリを考えてみましょう。

 「確率」を正しく理解する

 1つめは基本的なものですが、毎年「どこかで」という点です。

 「数十年に一度の大雨の予報」とは、「ある場所」での降水量についての話です。日本では、降水量を測定している気象庁のアメダス観測所が1300箇所ほどあります。さらにデータ解析により5km四方の単位で情報収集しています。つまり、1万5000箇所を超えることになります。「50年に1度」は50箇所を同時に見ればほぼ毎年発生することになりますから、毎年耳にするのも不思議ではありませんね。

 同じような確率表現を不思議に感じる例を紹介します。あなたを含め367人の集団を考えます。集団の中にあなたと同じ誕生日の人がいる確率は決して高くないのですが、「だれかとだれか」が同じ誕生日である確率は100%です。なぜなら、日付はうるう年の2/29を含めても366通りしかありませんので、367人いればどれかの日付は2人いるのです。

 2つめは「基礎データの傾向が変わってきている」です。

 たとえば200年間のデータを取っていたとします。過去200年で10回しか降っていないような降水量は「20年に一度」の大雨ですね。それがこの3年連続で発生したとします。すると203年で13回ですね。割り算をしても 15.6年に一度です。つまりここ数年、降水量が急激な増加傾向にあったとしても、200年という膨大な過去データの中で考えると「小さな誤差」になってしまうのです。10年単位で計算し直すなど、「どこまでを基礎データとして扱うか」の修正・補正が必要になってきているのでしょう。実際に、福岡県では4年連続で「数十年に一度」の大雨特別警報が発表されています。

 実は気象庁には150年程のデータが残っており、HPでは100年分での確率データが閲覧できます。ちなみに、「平年並み」の「平年」は直近30年で計算しなおしています。

 3つめは「確率についての勘違い」です。

 上記の例をもとに考えてみましょう。「203年で13回しか起こらない大雨がある。しかも去年発生している」。ここまでの確率を計算すると15.6年に1度です。この 「15.6年に1度」を、私たちは「次に起こるのは15.6年後」と錯覚してしまうのです。

 15.6年に1度とは、「次の15.6年間のどこかで1回発生する」ということです。15回に1度しか当たりが出ないクジを引いて、14回連続外れて、15回目に当たりが出るという確率は40%以下です。つまり「次の15.6年のどこかで発生する」を勘違いして理解しているのです。さらに、環境の変化により過去のデータよりも発生率が高まっているのならば、感覚よりも早く「次回」に遭遇することになるでしょう。

 これは、サイコロで1の目を出したいとき、5回連続で外れたなら「つぎは絶対に出ると考えてしまう人が多いのと同じです。過去がどうであろうと、サイコロで1が出る確率は6分の1ですね。100人にサイコロを振ってもらい、5回連続で1が出なかった人だけを集めて6回目を振ってもらっても1が出る人は特別多くはなりません。しかし、5回連続で1が出なかった人は「確率では次は間違いなく1が出る」と信じてしまいがちです。

 私たちは、「数字は嘘をつかない」と思い込み、「数字の意味を取り違えている」自分に気づかないのです。

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