新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた中小企業や個人事業主を支援する国の持続化給付金の詐取事件で山梨県警は、詐欺容疑で逮捕した埼玉県鶴ケ島市の男子大学生(19)に指南役がいる可能性もあるとみて捜査している。一方、中小企業庁が同様の手口の申請を多数確認し、警察当局に順次通報していることが分かった。(渡辺浩)
架空経費で税額ゼロ
男子大学生の逮捕容疑は、衣服などを扱う卸売り事業主を営んでいるという嘘の所得税確定申告を税務署に行った上で、5月下旬から6月上旬の間、スマートフォンを使い、中小企業庁の持続化給付金申請サイトに確定申告書や売り上げが減ったという台帳などを提出、6月11日に給付金100万円を振り込ませたとしている。
山梨県警によると、大学生は昨年1年間に約120万円の収入があったとして、5月中旬に確定申告していた。ただ、架空の経費を計上し、税額はゼロだという。
昨年分の確定申告の期限は今年3月16日だったが、新型コロナ感染拡大で1カ月延長された後、「柔軟に受け付ける」として今も受付が続いている。こうした措置が悪用された形だ。
大学生は山梨県出身で、県警が別の事件を捜査する過程で詐取が浮上。容疑を認めているという。県警は嘘の確定申告をする手口を自分で思い付いたとは考えにくいとして、背後関係を調べている。
迅速支給を逆手に
脱税ではなく、収入がないのにあったと確定申告することは罪に問われないのか。埼玉県を管轄する関東信越国税局は「税法上、それを罰する特段の規定はない」との見解だ。刑法の公正証書原本不実記載や私文書偽造にも問えないとみられる。
元国税調査官の松嶋洋税理士は「手口を指南している黒幕がいるのではないか」との見方を示した上で、「迅速支給が求められているとはいえ、中小企業庁の審査が甘かったのではないか」と指摘する。
「新型コロナの感染拡大で国税当局は対面による税務調査を控えているが、その余力で中小企業庁に協力し、不審な確定申告を調べるべきだ」と役所間の連携を求めた。
税理士関与の可能性も
持続化給付金の受付期間は来年1月15日までで、中小企業庁は審査を強化するとともに、給付金を支給済みの申請についても不正がないか洗い出しを始めた。特に、今年初めて確定申告したとする申請を重点的に調べるとみられる。
関係者によると、多数の不審な申請の中には、同じ税理士が確定申告の手続きを行っているケースもあるという。山梨県警が逮捕した大学生は自分で確定申告しており、別のグループの可能性が高い。
中小企業庁から通報を受けた警察当局は、税理士の関与がないかどうか慎重に捜査するとみられる。
持続化給付金を所管する牧原秀樹経済産業副大臣は自身のツイッターで、大学生逮捕を報じる産経ニュースを紹介して、こうつぶやいた。
「持続化給付金、不正者を逮捕しました。これからどんどん進めます」