キャリア

中途入社でヒット商品「ナノエアーマスク」を開発したリケジョ部長 (2/3ページ)

 夏の新規需要を開拓

 ヒノキの花粉症だという岸部長は、6月を過ぎて気温が18度を超えるとマスクを着けていた人の多くがマスクを外すのに気づいた。ヒノキの花粉は夏にも飛ぶため、暑くなってもマスク需要はあると考え、通気性のいいマスク開発に力を入れたのだ。これで開発したのが今年1月に発売したナノエアーマスク 花粉対策用(7枚入り398円)だ。

 この視点は、夏にはニーズがないと思われていた新規市場の開拓にもつながった。コロナの影響もあり、冬場だけと思われていたマスクの着用は今や季節にかかわらない「生活必需品」となっている。夏でも着用できるマスクを開発したのは先見性の賜物(たまもの)といえるだろう。

 会長、社長並ぶ「プレゼン会議」で“ボツ”に

 同社では製品化する前に、会長、社長、役員陣が居並ぶ前で開発担当者がプレゼンをして承認をもらう「プレゼン会議」と呼ばれる“通過儀礼”がある。生活者目線の「うるさい」質問が飛んでくるこの会議をクリアするのは容易ではない。1回目の挑戦で合格することは少なく、多くの商品を開発してきた岸部長もナノエアーマスク 花粉対策用を提案した19年4月のプレゼンでは、合格点をもらえなかった。理由は2つ。「花粉対策用というニッチなニーズがそもそもないのでは?」という指摘と、「他社と比較して割高なこと」だった。プレゼンで5枚入り398円を提示したら「ボツ」だった。

 岸部長は商品の付加価値を認めてもらうためにプロモーションや販売方法を再考し、7枚入り398円に設定。1カ月後の2回目のプレゼンで突破することができた。この経験をもとに、のちにヒット商品となるナノエアーフィルターを使った国産「ナノエアーマスク」をプレゼン会議にあげると、19年12月のプレゼンで1発OKが出た。

 岸部長は「プレゼンは毎週のようにやっているので鍛えられた。採用、不採用という表面的な結果だけでなく、どんな理由でダメ出しをもらったのかを掘り下げるのが大切。ボツになった背景を考えれば、次にどういう方向性を打ち出せばより良い商品ができるか、改善点が分かる」と指摘する。

 発売時期がコロナと重なる

 最初に開発した花粉を防ぐ使い捨てマスクは、夏用ではなかった。新型コロナもまだまん延していなかった。ところがアイリスのマスクは通気性が良く夏でも蒸れにくいことなどから、消費者に少しずつ認知されてきたのだ。岸部長は語る。

 「当社は2007年よりマスク生産を開始している。新型コロナの感染拡大で、日本でのマスク需要が急拡大し、中国の2工場では24時間フル稼働で生産した」

 経営陣も当初は花粉対策用のマスクというニッチな市場が果たして利益につながるかを懸念したものの、コロナによって状況が一変した。日本では年明けからマスク不足が深刻化し、1月にはコンビニなどで全く入手できない事態となった。この時期と、アイリスの花粉用ナノエアーマスクの発売が重なり、瞬間蒸発のように売れた。

 その後、マスクの本格的な生産を決断。宮城県の角田工場を活用してマスクを増産し、8月中には月産1億5000万枚を供給する。中国の工場で生産して日本に輸出する8000万枚を合わせると、月2億3000万枚の供給が可能になるという。国内への設備導入にかかる投資額は約30億円だが、この4分の3は国からの補助金を活用する。アイリスの調査によると、生産量は日本で1位になるとみている。

 海外に向け布石

 世界のマスク市場で見ると、海外では医療用マスクは使われてきたものの、家庭用マスクはつける習慣がなかったため、ほとんど使われていなかった。しかしコロナの感染拡大によって家庭用使い捨てマスクの世界的な需要が急増し、全世界で生活必需品になりつつある。

 アイリスのマスク工場は中国の大連と蘇州の2カ所にある。しかも両工場とも中国資本との合弁ではなく、100%アイリス資本の工場だ。このため今年の1月ごろ中国から日本へのマスク輸出がストップした際も、同社の工場から日本向けに輸出ができた。

 今後は中国以外でも、米国とフランスの工場が10月から、韓国が11月からマスクを生産し、中国で蓄積した生産ノウハウを生かして、世界市場を視野に入れた生産体制を確立させようとしている。

 アイリスの工場は、稼働を考える上で、常に3割ほど余裕をもって建てられている。このため、増産が必要になった場合でも機械さえ持ち込めば生産がスタートできる機動的な体制を組むことが可能だという。

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