その彼らの回答が、全体のファッション性よりもマスクの機能をより優先することだった。いや、実を言えば、ぼくは他社の新作発表の現場を見ていない。もしかしたら、ブルネッロ・クチネッリだけの方針ではないかもしれない。
ただ、「ニューノーマルへの適性誇示」の記号としてのファッショナブルなマスク現象を暗に静かに批判しているように、ぼくには思えた。
人が集まる室内ではマスクを着用しないといけない規則がある。でもそれを受け身でやっているようには思われたくない。だからお洒落ぶりを発揮したい。そうやって自分を鼓舞もしたい。
気持ちとして十分に分かる。しかし、それをウイルスとの共生を受け入れる適性シンボルとして捉えると、適正競争というちっとも楽しくない次元に嵌り込んでいる構図ができる。
ブルネッロ・クチネッリのショールームの風景を眺めながら、「その構図はやめようや」と軽くストップをかけているのではあるまいか、とぼくは考えた。何人の人がそう思うか分からないが、ラグジュアリー領域のファッション企業が示す態度は、思ったより影響が大きいと期待したい。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。