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「教え子」との突然の別れ…コロナで帰国の青年海外協力隊が“リモート指導” (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国際協力機構(JICA)が派遣する「青年海外協力隊」のスポーツ分野で貢献する指導者ら約230人全員が帰国を余儀なくされている。来夏の東京五輪や地元の大会など、それぞれの目標に向かって努力を重ねてきた“教え子”たちとの突然の別れ。「何とか指導や普及を続けたい」と、日本から動画配信やビデオ会議を活用し、支援を継続する動きが出ている。

 インドネシアのマカッサルでアーティスティックスイミング(旧称・シンクロナイズドスイミング)を指導する隊員の小野祥子さん=横浜市=は週4回、自宅でパソコンを開き、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を活用した指導を行う。「手の指先はまっすぐではなく、少し小指を上げて」。現地のコーチの協力も得て、選手に細やかな動きを正確に伝える。

 指導の対象は、10代を中心とした地域を代表するチームの選手たちだ。コロナ禍で来秋に延期となったインドネシア全国大会での優勝を目指している。

 11歳から競技に打ち込んだ小野さんは高校3年で選手を引退し、日本国内で指導者に転身。2016年に個人契約でインドネシアへ指導に出向いたことがきっかけで、19年9月からは青年海外協力隊員として渡航し、指導を行ってきた。

 現地の競技レベルはまだ高くない。技術面や競技のベースとなる筋力、専門的な知識が足りず、競技レベルが高い日本から来た小野さんへの期待は大きかった。現地では軍施設のプールが使用でき、「水深も5メートルあり、練習環境は良かった」(小野さん)。

 しかし、指導開始から数カ月。世界的な新型コロナの感染が深刻化する。インドネシアでは当初、中国や日本など「海外の感染症」との認識が強かったというが、3月上旬にジャカルタで感染者が確認され、日本人と接触していたとのニュースが流れた。小野さんは周囲への配慮から、練習参加を自粛せざるを得なくなった。

 選手たちに考案した練習メニューを渡し、できる限りの指導を続けた。しかし、3月にはJICAから一時帰国の指示を受けた。2、3カ月で戻るつもりで別れのあいさつにプールへ行くと、号泣する選手もいたという。

 現地も間もなく、軍施設のプールが閉鎖され、選手たちが目標にしていた全国大会も延期が決まった。それでも、選手たちは「『1年のギフト』(時間的余裕)をもらった」と練習への意欲は衰えなかった。小野さんは「日本からできることはないか」と考え、オンラインで指導することを決めた。

 中心は陸上でのトレーニング。「水中での競技だが、実はフォームの習得や基礎体力作りは陸上でできる」と小野さん。現役時代のトレーニングノートを見直したり、帰国後に日本の指導者に教えを請うたりして、自身の指導レベルの向上も目指す。隊員の任期は来年9月まで。再渡航の予定は立たないが、「選手たちの目標達成をできる限り手伝いたい」と意気込む。

 村上瑠希也さんはアフリカ南部のボツワナで柔道を教える。地元の青森で5歳から大学卒業まで柔道に打ち込み、全国大会にも出場した。弘前市が東京パラリンピックの柔道ブラジル代表チームの事前合宿地に決まったことで国際交流に興味を持ち、大学卒業後の2018年7月から隊員になった。

 ボツワナでは柔道はマイナー競技で、道場は国内に1つだけ。選手らは日本から寄付された柔道着に袖を通して稽古する。村上さんは首都で子供から代表メンバーまで30~50人を指導。16年リオデジャネイロ五輪代表にもなった男子選手が1人いるが、4月に開催予定だった東京五輪出場権をかけたアフリカ選手権が中止に。「東京五輪にはボツワナの選手団スタッフとして参加を楽しみにしていた」と話す村上さんも、まだ現地で感染者が確認されていなかった3月下旬に帰国を余儀なくされた。

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