高論卓説

企業に雇用抱えさせる「雇調金」 ポスト・コロナ見据えた支援策を

 12月末までとなっている「雇用調整助成金」の特例措置が、来年2月末まで延長された。雇用調整助成金は、企業が抱える余剰人員を解雇させないために、その給与を国が補填(ほてん)する仕組み。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で経済活動が急速に収縮する中で、失業者を出さないことを狙っている。政府は申請手続きを大幅に簡素化させる一方、支給額の上限を大幅に引き上げ、日額1万5000円とした。当初8月末までだった、そうした特例措置は、12月末までに延長されているが、さらに再延長するというのだ。(磯山友幸)

 端的に言えば、失業を防ぐために企業に代わって国が給与を支払う仕組みで、4月以降11月27日までで、その支給決定額は総額2兆2965億円に達している。2019年度の法人税収は10兆7971億円だったので、その4分の1近くが企業に戻っていることになる。

 企業に雇用されている従業員が失業しないで済むのだから、良い制度だと思われるかもしれない。だが大きな副作用も伴う。通常の景気循環で、しばらくの間、企業に雇用を抱えさせておけば、再び元に戻るのならば、「社内失業」にとどめておくのは一定の意味がある。だが、今回の新型コロナショックは、企業の収益構造を根本から揺さぶっている。新型コロナ以前のビジネスモデルが「ポスト・コロナ」つまり新型コロナ後にも通用するかどうか疑問なのである。

 例えば、会議のために出張するというこれまで当たり前の行動の一部がオンライン会議に置き換わるだけで、航空機の利用客数は減る。新型コロナが収束したからといって、元に戻らないとみられるわけだ。そうなれば、雇用調整助成金を使って休業させている従業員を、元のように働かせることはできない。つまり、いつまでたっても、雇用調整助成金から抜け出せなくなるのだ。

 米国の場合、日本とはまったく違う。新型コロナ蔓延以降、米国では「チャプター・イレブン」と呼ばれる連邦破産法11条の規定を使って企業を法的処理し再建する手続きが急増している。1月から9月までで5529件と、前年同期より33%も増えた。米国の場合、企業はさっさと従業員をクビにし、それを失業保険で救う仕組みになっている。

 米国の失業保険の1週間の新規申請件数は、リーマン・ショック後は66万件が最多だったが、今回は3月に600万件を超える週が2週続いた。5月末までの累計で4266万件が申請された。

 解雇された人々は、当然、失業保険をもらいながら新しい仕事を探す。3月に4.4%だった失業率は、4月に一気に14.7%に達したが、その後、徐々に低下。10月は6.9%となった。アマゾン・コムなど新型コロナで配送事業が急拡大した企業が積極的に雇用を引き受けた結果だ。つまり、ポスト・コロナで成長する企業に、「労働移動」が起きたとみていい。

 一方、日本は雇用調整助成金によって、旧来型の企業に雇用を「抱えさせる」政策をとっているため、これまでのところ失業率はほとんど上昇していないが、ポスト・コロナ型への転換、雇用シフトはほとんど起きていない、とみていいだろう。

 ポスト・コロナの経済社会をにらんだ、雇用のシフトを行わずにいれば、コロナが収束したときに、米国などの国々がV字回復する中で、日本だけが回復できないということになりかねない。

【プロフィル】磯山友幸 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。

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