今日から使えるロジカルシンキング

ドコモが払う犠牲 携帯各社がメインブランドの値下げに強く抵抗するワケ (1/2ページ)

苅野進
苅野進

「羊頭狗肉」の指摘に慌て、急遽“メインブランド”で

 菅首相が「国民の財産の電波の提供を受けつつ、大手3社が9割の寡占をしている」と問題視する発言をし続け、武田総務相も「携帯電話はぜいたく品ではなく、命に関わる大変重要な通信手段」として値下げを要求した結果、携帯電話各社が新プランを発表しています。

 KDDI(au)とソフトバンクが10月28日、それぞれサブブランドのUQmobile(UQモバイル)、Y!mobile(ワイモバイル)で20GBの通信プラン、定額の通話プランを含んで4500円前後(税別、以下同)という値下げを発表しました。さらに、サブブランドを持たないNTTドコモも12月2日、docomoの「ahamo(アハモ)」というおそらくはサブブランドとして用意していた新しいプランを発表。2980円で20GBというかなりの格安サービスを発表しました。

 docomoのahamoプランは、武田総務相が「多くの利用者が契約しているメインブランドではまったく新たなプランが発表されていない。サブブランドでの値下げは羊頭狗肉で問題だ」という指摘を受けて、メインブランドであるdocomoの一契約プランとしたというのが通説です。

メインブランド値下げで発生する「見えないコスト」

 携帯各社はなぜ「メインブランド」の値下げにここまで抵抗するのでしょうか? ここでは「値下げ」戦略の大きな「コスト」を考える必要があります。

 ロジカルシンキングや経営戦略の基礎の基礎として、「要素に分解する」という作業を学びます。例えば

売り上げ=単価×売り上げ個数

 ですね。値下げとは、この分解において「単価」が下がっても、その効果によって「売り上げ個数」が上がれば、結果として「売り上げ」自体も高まるという考え方です。

 値下げ自体は、普段売っている商品の値札を書き換えればいいだけですので簡単です。普段買っている顧客は喜ぶでしょう。そして、安くなることでいままで来てくれていなかった顧客によって「売り上げ個数」を増やされるのです。実は、ここに大きな“見えないコスト”が発生するために、「メインブランド」での値下げを嫌がるのです。

 単純に考えると、顧客が2倍に増えても人件費などのコストが2倍になるわけではないので利益は増加します。しかし、「値下げ」によって集められた新たな顧客層は「質」が異なるのです。これは、「値下げ」をした商店や企業がかなりの衝撃を受けるレベルで異なることが少なくありません。

 おそらく、たとえば今一番その衝撃を受けているのは「高級ホテル」でしょう。「Go Toトラベル」キャンペーンによって高級ホテルが「半額」で泊まることができるとなると、これまで値段によって泊まることができなかった層が押し寄せます。

  • 既存顧客の満足度の低下
  • ホテル側の対応経験の範囲外の要求

 という2つが大きなコストとしてのしかかってくるのです。

 「ブランドへの理解」と「満足度が高い既存顧客」とは、商売をするものにとってもっとも貴重な存在です。既存のサービスへの満足度が高いのですから、「いつも通り」の対応を展開すれば良いわけですので、運営コストも低くなります。安くなれば既存顧客も嬉しいでしょうが、これまでの値段でも来ていたわけですから、値下げすれば単純に利益が減るだけになります。

 そして値下げと引き換えに獲得した「値段が安いから来ました」という層が既存顧客と遭遇してしまうと、既存顧客が逃げる可能性が高まるのです。高級ホテルが携帯キャリアのように「サブブランド」を用意しているのはそのためです。たとえば「ハイアット」というグループでは、「パークハイアット」が最上級であり、「グランドハイアット」はビジネス顧客をターゲットにいれた大型ホテル、「ハイアットリージェンシー」は地方にも展開するベーシックなホテルという位置付けです。

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