社会・その他

「唯一無二の存在」京都アニメーション 放火殺人事件が業界に与えた影響 (1/2ページ)

 京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション(京アニ)」第1スタジオで起きた放火殺人事件について、アニメ史の研究者で日本大芸術学部講師の津堅(つがた)信之さん(52)が今夏、新書「京アニ事件」(平凡社)を出版した。事件は近く、殺人などの容疑で逮捕された容疑者が殺人罪などで起訴される見込み。京アニを「唯一無二の存在」と高く評価する津堅さんは、事件がアニメ業界全体に与えた影響を振り返り、「事件からの再建過程を社会に共有してほしい」と語っている。(尾崎豪一)

 「独立国」として成功

 京アニは京都府内に本拠を置き、東京都内のスタジオが主流を占めるアニメ業界では異質な企業だ。スタッフを自ら育成し、作業の多くを外注せずに自社で完結させることでも知られ、津堅さんは「他社とのかかわりを極力絶ち、独立独歩。常にアニメ界の主流の対極にいて成功してきた」と評価。著作では京アニを「独立国」と表現した。

 津堅さんによると、アニメ業界はファンのニーズに追随する形で作品を変化させてきた。

 たとえば「機動戦士ガンダム」などのロボット作品を得意とした「サンライズ」(東京)は2010年代、アイドルアニメブームに対応して傾向を変え、高校生がアイドルを目指すテレビアニメ「ラブライブ!」を制作。近年では、映画館で楽しむ劇場版作品や、アニメやゲームが原作の「2・5次元ミュージカル」など「体験型消費」に多くの社が力を入れる。

 対して京アニは「あくまでもテレビアニメにこだわり、時代のニーズの少し先を行く、常に違った特徴の作品を作り出してきた」と津堅さんは説明する。

 実際に制作されたテレビアニメはバラエティー豊かだ。主人公の育児放棄などが描かれる「CLANNAD(クラナド)」シリーズのように重いテーマの作品もあれば、バンド活動をする女子高生の日常を扱った「けいおん!」、SF風味の学園ストーリー「涼宮ハルヒの憂鬱」。映画作品では聴覚障害者のヒロインへのいじめが描写された「聲(こえ)の形」もあった。

 「『京アニがこんな作品を作ったのか』という驚きが積み重なり、『京アニが作るから安心できる』という信頼につながった」と津堅さんは分析する。

 テレビアニメの新作に期待

 業界で独自の存在感を見せてきた京アニだが、今回の事件で大きく傷ついた。津堅さんは「新作のテレビアニメシリーズを作ったときに京アニの復活を印象付けられる」と予測する。

 京アニは昨年7月の事件後、2本の新作映画を公開したが、いずれも既存作品の続編だった。背景には、テレビアニメシリーズ制作のハードルの高さがあるとみられる。放送は四半期(3カ月)にわたるため、多数のスタッフや1話あたり1500万~2千万円ともいわれる制作費の確保が必要で、作品の基礎資料がある続編や、制作期間に余裕を持てる劇場版作品の方が作りやすい。だからこそ新作テレビアニメの制作は安定した体制であることの証明になるという。 

 「事件の記録が重要」

 津堅さんは著作で「京アニの復興を応援したい」とエールを送った。その上で京アニに期待するのは、事件以後のマスコミ対応や義援金の扱い、新たなスタッフの拡充や教育、制作体制の変化などの再建過程をリポートとしてまとめ、公にすることだ。

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