【理研が語る/科学の中身】私が所属する理研のチームは生命科学系のセンターに所属しているのだが、生物学的な実験は行わず、コンピューターを用いた研究を行っている。コンピューターはインターネットを介して遠隔操作ができるため、新型コロナウイルス対策で在宅勤務が続いても困ることはない。むしろ今まで気がつかなかったこと、重要なことを意識させてくれた。
1つ目は「重要領域への集中」だ。私は研究者ではなく器用貧乏の技術員で、コロナ以前は雑務で何かと研究所内をばたばたすることが多かった。しかし、技術員といっても、研究チームが私に期待することは雑務ではない。コンピュータープログラムを作ることだ。この雑務に気を取られる状況がコロナ以降の在宅勤務でがらっと変わり、明らかにプログラムの成果量が増えた。これは自室でパソコンのモニターを見続ける時間が増えたことによるたまものだ。今にしてみれば、移動(出張など)に時間を消費することもよいこととは思えない。やはり自分の本業に投資することは重要らしい。
2つ目は「チャレンジしてみる・変化を恐れない」(こと)だ。コロナ以前には「所内にいると落ち着いてプログラミングできないので、出勤を止めて在宅勤務してみる」などという発想は持ちもしなかった。
今、在宅勤務を支えているビデオ会議ソフトウエアはコロナ以前から存在していたが、私はそのような技術を積極的に取り入れる姿勢を持っていなかった。そういったソフトウエアを試してみる姿勢を持っていたら、在宅勤務の発想を持つ可能性はゼロではなかったかもしれない。この反省は凝り固まった考えにとらわれず、自らの意思で変化を起こし続ける必要があることを意識させてくれた。
最後は「情報技術の導入によって業務、組織の変革は実現される」(こと)になると思う。1つ目に挙げた雑務には紙媒体の受け渡しがあり、これがばたばたする原因になっている。だが、どうやら理研でもコロナ以降は情報技術の導入でペーパーレスの方向に向かうようだ。私としてはこの流れは非常にありがたく、情報技術の導入が持つ力を信じるようになった。
以上が普段の考えのエッセーなのだが、話の締めにだけ所属チームの研究紹介を。チームリーダーや共同研究者が掲げている計画にロボティックバイオロジー(ロボットによる生命科学系実験の自動化)なるものがある。生命科学実験にフォーカスし、ロボットや情報技術の導入で研究現場の変革を起こそうとしている。ご興味を持たれたら、インターネットを検索していただきたい。
【プロフィル】西田孝三(にしだ・こうぞう) 理化学研究所生命機能科学研究センターバイオコンピューティング研究チーム・テクニカルスタッフ。奈良先端科学技術大学院大学を経て、2011年から現職。業務外では科学計算用オープンソースソフトウエアのコミュニティーの発展に力を注いでいる。