高論卓説

見通せない五輪、代替大会探る時期 忘れてないかアスリート・ファースト

 体操競技の内村航平選手は、(五輪が)「できないではなく、どうやったらできるかを考えてほしい」と、インタビューで語った。コロナ禍によって、1年延期された東京五輪は果たして開催できるのだろうか。昨今、あちこちからの情報は、開催困難に傾きつつあり、NHKをはじめ各メディアの世論調査でも、五輪ムードは沈下気味だ。

 国会議員の襟から五輪バッジが消えて久しく、街の人からも熱気は消失している。国民からすれば、新型コロナウイルスの感染をいかに避けるか、ワクチンの扱いがどうなるかに関心が高まっていて、五輪どころではないという状況である。

 昨年末、私は東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長と会った。開催を熱心に説かれ、中止なる考えをみじんも感じさせなかった。慎重ながらも復興五輪の火を消さない努力をにじませた。私は、森会長の決意の固さを読み取りつつ、いつ中止か開催かの判断をされるのかを質問させない迫力におののいた。

 また、正月、自民党の二階俊博幹事長と懇談する機会があった。「安全安心の復興の証しとしての五輪をやらねばならない。党で開催決議をしたいくらいだ」と、私に語られた。菅義偉首相も18日の所信表明演説で五輪開催を主張された。緊急事態宣言下であっても、政界からは中止論が湧いてこない。

 IOC(国際オリンピック委員会)や関係組織に加え国内世論も、東京五輪の開催については、国連やWHO(世界保健機関)が最終判断するのではないかと決めつけている感じがしてならない。五輪経費としてコロナ対策費と延期の追加経費として2940億円を加えた大会予算は、実に1兆6440億円だ。既に4000億円以上が支出されており、もし中止に追い込まれれば、水泡に帰してしまう。この責任論を考慮したとき、国連やWHOの判断に委ねるのが好都合と考えてもおかしくはない。

 IOC、JOC(日本オリンピック委員会)に多くの有力企業が協賛金を出している。中止となれば、経済的影響は計り知れず、今後の五輪ムーブメントにも波及するばかりか、商業主義のIOCのあり方も問われることになろう。

 外国人選手の入国問題や観客問題、選手村のあり方、ホストタウンの問題など、開催まであと半年しか残されていないのに、ほとんど白紙状態である。「開催か」「中止か」を早く決定しないことには、関係者は動けない。高精細カメラやスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」といった日本ならではの最先端のテクノロジーを駆使すれば、観客を入れても開催は可能だという。問題は世論と世界中の人々の声であろう。無観客にして入場料収入900億円を、吹っ飛ばしたとしても安全第一。組織委の頭の痛い問題に違いない。

 私は、万が一、東京五輪が中止に追い込まれようとも、その史実を消してはならないと考える。既に人々の協力によって都市鉱山からメダルが作製されている。コロナ禍が去り、各競技の世界選手権が開催されれば、それを東京五輪の代替大会としてメダルを贈呈するがいい。五輪メダリストとして名を刻むことによって、競技者たちの名誉を守ることができる。私たちは「アスリート・ファースト」を忘れてしまってはいまいか。

 組織委、政府、東京都、JOCは、次なる策としてIOCと各競技の国際競技連盟(IF)に、万が一に備えて相談しておく時期にさしかかっていることを認識すべきではないか。

【プロフィル】松浪健四郎 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。大阪府出身。

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