社会・その他

「人質司法」の誤解アピール 法務省、ゴーン事件受け世界へ動画発信

 「第14回国連犯罪防止刑事司法会議」(京都コングレス)が7日、京都市の国立京都国際会館で始まった。レバノンに逃亡した日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の事件では、欧米を中心に日本の刑事司法制度に対する批判が起きたことから、法務省は国際会議の場を利用して日本の状況を理解してもらおうと、日米の法学者による対談動画を制作。会場や専用サイトで発信し、「人質司法」などの国際的な批判が「誤解」に基づくものだと訴えている。

 4度にわたり逮捕されたゴーン被告をめぐっては、否認を続けて身柄拘束が100日超の長期に及んだなどとして、海外メディアを中心に「人質司法」といった批判が高まった。被告自身も逃亡直後の昨年1月の会見で、日本の刑事司法制度について、弁護人が取り調べに立ち会えず、有罪率が99%と高過ぎるなどと非難。「日本で公正な裁判が受けられない」と訴え、逃亡を正当化した。

 当時の森雅子法相は「人質司法」との批判に「適正な手続きを定め、適正に運用されている」と反論。有罪率の高さは「有罪判決の見込みがある場合に起訴する運用が定着している」と述べ、不起訴になっている事件が多いことを強調した。発言は英語やフランス語にも訳されている。

 しかし、昨年11月には国連の作業部会が、日本の身柄拘束制度を「恣意(しい)的な拘禁」と批判する意見書をまとめるなど、国際的に「誤解が解消されたとは言い難い」(政府関係者)状況だ。京都コングレスは、途上国の刑事司法機能支援などが議論の中心のため、「人質司法」といったゴーン事件に絡む問題は議題になっていない。

 そこで、法務省はサイドイベントとして、慶応大の笹倉宏紀教授やニューヨーク大ロースクールのブルース・アロンソン客員研究員ら日米の法学者4人が全編英語で対談する84分間の動画を作成。会場で上映し、京都コングレスの専用サイトでも発信を始めた。

 アロンソン氏は、米国は有罪を認めれば公判にならず刑が決まる制度で、日米の有罪率は統計基準をそろえれば変わらないと説明。笹倉氏は、勾留がフランスでは1年超、ドイツでは無制限で認められ、日本だけが長期勾留を批判されるのは不当だと訴えた。一方、ダニエル・フット東大名誉教授を含む米側の2人は、取り調べの弁護人立ち会いは「認めるべきだ」と主張。司会役の川出(かわいで)敏裕東大教授は、弁護人の立ち会いが容疑者の更生可能性や謝罪の意思を阻害する可能性もあると指摘した。

 法務省の担当者は「日本の司法制度の正確な情報を提供しようと動画を作成した。今後議論するための土台になれば」としている。

(宮本尚明)

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