働き方

本社機能移転とワーケーションに照準 地方のコロナ後、パイの奪い合い活発化

 都市部からの会社組織の移転や余暇を楽しみながら働く「ワーケーション」を行う人々の受け入れ態勢が、地方都市で加速している。新型コロナウイルス禍で密集を避ける「新常態(ニューノーマル)」が求められ、暮らしや働き方などで新たな価値観が生まれていることに呼応した動きだ。隣県同士でタッグを組んでワーケーション人口の取り込みを図る自治体があれば、本社移転を検討してもらう「お試し移転」制度を設けるところも。地方都市では「コロナ後」も見据えたパイの奪い合いが活発化している。

 パラダイムシフトに備え

 「アフターコロナを考えたとき、『こちらに住んでみよう』とかワーケーションとか、パラダイムシフト(革命的な変化)が起こることを考えなくてはいけない」。1月18日、岡山県と鳥取県によるオンライン会議で鳥取県の平井伸治知事はこう話した。会議で両県はワーケーションの普及促進に向けて連携することで合意。平井知事は「岡山、鳥取両県で日本全国のリーダーシップをとるくらいに共同戦線を張っていきたい」と意欲を見せた。

 実践の場となるのは両県と島根県にまたがる自然豊かな「大山隠岐国立公園」。両県はワーケーションの本格誘致に向けて今後、共同でモニターツアーを行う。

 両県ではコロナ禍で観光客が減少するなか、すでにワーケーション誘致へ向けた動きが具体化している。

 国立公園の一角を占める岡山県真庭市や観光業者らでつくる一般社団法人真庭観光局は昨年、ワーケーション事業を企画し、国立公園でのワーケーションを推進している環境省の補助金事業に採用された。それに基づいて各種イベントを行っており、2月20日には中国山地の蒜山(ひるぜん)三座を望む「蒜山ハーブガーデン ハービル」(真庭市)で、地元名産のジャージー牛乳を使った英国菓子を作る講習会を開催。近隣県から約20人が訪れた。ワーケーションに訪れた人々が余暇を過ごす際のアクティビティ(行動)づくりを目指す狙いもあり、同観光局の担当者は「ワーケーションで来る方は余暇を過ごす時間が8割を占めるだろう。メニューを増やして地域の質を上げていきたい」と意気込んだ。

 本社機能の移転は倍増

 お試しができるユニークな補助金事業で企業の本社機能の誘致に力を入れるのが広島県だ。

 県では昨年10月、本社機能の移転にかかる補助金の上限を1社当たり1億円から2億円に引き上げ、移住者の家族が移転する場合の補助金も拡充した。合わせて「お試し移転」として3カ月間、オフィス賃料や通信回線の使用料などを1社当たり最大1千万円補助する制度も新設した。小人数のベンチャー企業で代表者のみが移住してくるケースが多いことへの対応だ。

 県内投資促進課によると、本社機能の移転についての問い合わせはこれまで年間20~30件程度だったが、今年度はこれらの新制度だけで600件に達した。「リモートワークの普及で、本社が東京や大阪にある必要性が薄まったことを受けた検討が多い」という。

 今年度は1月末現在で本社機能の移転は20件。年度内に約30件がまとまる見込みで、昨年度の15件から倍増する勢いとなっている。

 まずは支店に狙い

 同じ中国地方のうち、広島県に隣接する岡山県は対照的に本社誘致は伸び悩む。平成27年に補助金制度を新設し、28年には上限額を1社当たり最大で5億円までに引き上げたが、これまでに成約は2件にとどまっている。

 岡山県では来年度、中四国の支店を県内に設ける場合の補助金交付をめぐり、登記簿に支店を記載しなくてもできるよう要件を緩和する。使い勝手を良くし、まずは支店機能の誘致を進める考えだ。岡山県企業誘致・投資促進課の担当者は「問い合わせは多数いただいており、都市間競争に負けないよう補助金の制度に見直しをかけて手厚くしていきたい」と話している。

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