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新天地で輝けばいい…プロ野球移籍問題

 春季キャンプを終えて開幕を控えた3月上旬、巨人・田口麗斗投手(25)とヤクルト・広岡大志内野手(23)の交換トレードが発表された。多くのファンは驚いただろう。

 田口は2016、17年と2年連続2桁勝利。一昨年は中継ぎで55試合に登板するなど通算36勝37敗2セーブ、16ホールドという貴重な左腕投手である。一方、広岡はプロ6年目、ドラフト2位で入団、パンチ力が魅力の右打ちの内野手で、昨季は打率2割1分5厘、ホームラン8本…。“未来の大砲”と期待されていた逸材。巨人は坂本勇人内野手の後継者として“将来”を求め、投手不足に悩むヤクルトの“今”と利害が一致した。

 求められて資質開花

 かつてトレードといえば選手にとって“放出”“売られる”という観念があり、マイナスのイメージがあったが、いま悲壮感はない。広岡は4日、古巣・ヤクルト戦でさっそく本塁打、田口も6日の広島戦に先発して2回を無失点に抑えた。ともに笑顔があった。

 球団側にも、かつてはトレードで移籍した選手が移籍先で活躍することを恐れ、消極的な“悪しき不文律”もあったが、巨人・原辰徳監督の思考は違った。昨年10月、巨人・山口寿一オーナーがこう代弁していた。

 「原監督から『相談したいことがある』とシーズン中に言われ、その時、監督が言っていたのは…あまりいい言葉ではないかもしれないけど、できるだけ選手を飼い殺しという状況にしたくない、という考えを持っている。だから非常にしっかりとした考えを持って、トレードを進めているということです」

 巨人は昨年、楽天との間でウィラー内野手(交換相手は池田俊投手)、高梨雄平投手(同高田萌生投手)など5件のトレードを成立させた。つい損得勘定してしまうが、「選手が活躍する姿はいいもんでしょ」という原監督の言葉は明快である。

 チーム事情があって実力を発揮できない選手に、他球団でのチャンスを与える。そういう機会が増えることでチーム内の新陳代謝だけでなく、球界全体に活性化にもつながる。環境が変われば、求められれば、眠っていた資質も開花する。昨年9月にロッテに移籍した沢村拓一投手はいい例である。11年ドラフト1位のエリートは、移籍会見したその夜、すぐさまマウンドに立ち、三者連続三振の“新天地デビュー”だった。

 「求められるって、うれしいこと…」。昨季、巨人では13試合で1勝1敗1ホールド、防御率は6.08だった男は、移籍後は22試合2敗1セーブ、13ホールドで防御率は1.71と復活。今季、メジャー移籍の夢(レッドソックス)をつかんだ。

 近年、巨人からの“移籍組”の言葉を聞いた。木佐貫洋さんは10年にオリックス、13年日本ハムへ移籍して活躍。「巨人だけでは見えない景色を経験できた。違う環境、組織、出会った人々は財産」と。木佐貫さんはその後、巨人コーチを経て今はスカウトに転身した。17年に日本ハムへ移籍し、今や中核打者に成長した太田泰示外野手は以前、こう話して目を輝かせた。

 「乞われて日本ハムにきた。今は野球が楽しい」

 かつて巨人に定岡正二さんという投手がいた。甲子園を沸かせ、ドラフト1位で入団、20勝投手の江川卓さん、西本聖さんらと同時代で活躍したが、近鉄(04年オリックスと合併)への移籍を拒否、「ジャイアンツの定岡で終える」と引退した。それもある意味、人生の選択の一つであるが、木佐貫さん、太田、沢村は“次”を目指した。

 自らが咲く努力を

 日本のエリート集団といわれる東京大学の今春合格者は2993人と発表された。一方、昨年、ドラフトでプロ“合格”した選手は支配下、育成を含めてわずか123人…。単純比較はできないが、プロ野球選手は類まれな資質を持つエリートたちなのだ。そんな天賦を無駄にしてほしくない…原監督の思考はここにあるかもしれない。

 思い出した言葉がある。

 「置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです。時間の使い方は、そのままいのちの使い方です。自らが咲く努力を忘れてはなりません」

 カトリック修道女である渡辺和子さんの著書「置かれた場所で咲きなさい」(幻冬舎)の中にある言葉である。(産経新聞特別記者 清水満)

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