新型コロナウイルスに悩まされた1年余りの経済状況を踏まえた今春闘。17日の集中回答日では、コロナ禍にもかかわらず満額回答を得た企業も少なくないが、労働組合側が業績悪化を考慮して控えめな要求にとどめたという事情もある。2014年以来の「官製春闘」に後押しされてきた高水準の賃上げ機運は後退しており、個人消費の低下へ“負の連鎖”がつながれば日本経済は再生の道を断たれかねない。
「賃上げ要求した組合では、多くの組合で賃上げを獲得でき、厳しい交渉環境の中で共闘の相乗効果を発揮できた」
主要製造業の5つの産業別労組が加盟する全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)の高倉明議長(自動車総連会長)は17日のオンライン記者会見でこう述べ、経営側からの回答状況に関し、一定の成果を得られたと評価した。
事前の予想では、コロナ禍で多くの企業が業績悪化に見舞われ、賃金水準を底上げするベアについては「ゼロか数百円の企業ばかりになる」(厚生労働省幹部)とみられていた。それだけに、電機大手各社が前年とほぼ同実績で8年連続のベアを引き出すなど想定よりも上振れし、金属労協の幹部に安堵(あんど)の表情も見られた。
ただ、自動車の一部や重工、2年に1度の統一交渉年ではなかった鉄鋼などでは新型コロナ影響で赤字決算となった企業も存在し、労組としても手放しでは喜べない状況だ。コロナ禍の対応次第で企業間の格差が広がっているともいえる。
春闘をめぐっては、安倍晋三政権が「経済の好循環を生み出す」として、政府が経営側に賃上げを促す官製春闘を推し進め、昨年まで春闘での賃上げ率2%を7年連続で達成してきた。賃上げは国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費を促す効果があり、税収増など財政再建にも波及するため、経済再生には不可欠なものだ。
今年の春闘で2%確保は困難な情勢だが、コロナ後に再び賃上げの流れに戻れるかは官民挙げた今の踏ん張りにかかっている。(桑原雄尚)