最後に、3つ目の問題点として「後継者が育ちにくい」こと。農業は自然との関係でやり方が変わります。土の状態や気温によって、同じ作物でも作り方がぜんぜん違うのです。「このようにすれば絶対に成功する」というセオリーもありません。
また、問題が数値化されていないことも多く、可視化されていないという課題もあります。就業から一連の作業を体験するまでに長い期間を要するため、例えば年間1つの作物に取り組んでいた場合、10年経っても10回しかその一連の流れを経験できず、長年の「経験と勘」がものをいう世界という価値観があります。
そのため技術の継承が難しく、後継者に知識が受け継がれていかないのです。大規模農家では、スマート農業機械を利用したり、数値で生育環境のデータを管理したりと情報共有が進んでいるところもありますが、個人レベルで技術の継承が行われにくいことが、農業の発展を鈍足化しているといえるでしょう。
これまでの日本の農業は、農政やJAの存在によって守られてきた産業で、それは悪しきことではありません。ただ、業界を調査していくなかで、今の時代に合った農業を、収益性のあるビジネスにしていくということが求められているタイミングだと強く感じました。
農業界の中心にいる方々はもちろん、これから農業に何らかの形で関わる方の意識変革が必要なマーケットであると認識し、そうした状況を推測しながら、新規事業としてマイナビがどのように参入するかを検討した結果、当社の得意な人材ビジネスを農業の市場で展開しても難しいと判断しました。
そもそも人材採用にコストをかけるという概念が存在せず、採用予算をかけて人材を募集するという考え方を浸透するのにも時間を要すると感じました。
無理にサービスを立ち上げたとしても、3年くらいで収支が全く合わず、せっかく参入したマーケットから自ら撤収せざるを得ない状況になるのではないかと、直感していました。
まず我々に求められていること。それは、「もっとこの日本の農業の状況を知り、当事者の皆さんたちの声を聴くこと」「農業に興味・関心を持つ人の声を聴くこと」そして「農業を取り巻くステークホルダーの方々と一緒に未来を変えるビジネスを創り出すこと」なのではないかと考えました。
一手として、「寄合所」的なポータルサイトを作り、情報発信や直接的な活動を通して実現していこうと、農業総合情報サイト『マイナビ農業』を立ち上げることとしました。情報サイトを通して、農業を収益性のあるビジネスに変革していく優れた事例を世に配信しながら、このマーケットに取り組む沢山の方々とお会いし、直接お話すること。そして「変革」のための事実をしっかりと世の中に配信することを通して、多くの人が農業に抱いているステレオタイプを変革させていくためのフラッグシップとして『マイナビ農業』をスタートしました。
当初の『マイナビ農業』のビジネスモデルはシンプルで、広告記事制作やバナー掲載等を収益源とする情報メディアです。当時は、農業専門の大規模なWebメディアは存在しておらず、まさにフロンティアな市場を創り出すところからのスタートとなりました。
そこからさまざまな経験を経て今日に至るのですが、まだまだ我々の事業も道半ば。日々試行錯誤しながらマーケットと向き合っている状況です。
ただ、事業を開始して3年を超え、今年で4年目を迎えられたことは手前味噌ながら誇れることです。通常のマーケットと比較すると成長の進捗はやや遅いかもしれませんが、確実に、着実に、成長を実感しています。
今回は私の自己紹介、そして『マイナビ農業』の立ち上げに至った経緯について振り返りました。次回以降、「農業」マーケットを如何に採算のとれるビジネスとして捉えていくかを様々な取り組みを事例にお伝えしていきます!今後ともよろしくお願いします。
【「ビジネス視点」で読み解く農業】「農業」マーケットを如何に採算のとれるビジネスとして捉えていくか-総合農業情報サイト『マイナビ農業』の池本博則氏が様々な取り組みを事例をもとにお伝えしていきます。更新は原則、隔週木曜日です。アーカイブはこちら