働き方

賃金デジタル払い導入 連合は安全性不安視、銀行は慎重姿勢

 賃金を銀行の口座ではなく、スマートフォンの決済アプリに入金する「賃金デジタル払い」についての議論が本格化している。各種のカードやスマホなどを利用したキャッシュレス決済が増える中、賃金を直接、デジタルマネーに変換できる利便性が注目されている。

 政府が成長戦略の一環として導入を目指しているが、労働界には安全性への不安から慎重な対応が必要とする見方も多い。銀行はビジネス領域が侵されるとの懸念から警戒を強めている。

 原則は通貨払い

 デジタルマネーの使用が増えれば、その分、店頭での現金の受け渡しが少なくなるため、政府は新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた「非接触」型の新しい生活様式としても有効と説明している。さらに、日本での口座開設が難しい外国人労働者の就労環境の改善効果も見込めるとしている。

 賃金の支払いは、労働基準法で「通貨で直接、労働者に支払う」と定められている。実際の支払いは口座振り込みが多いが、あくまでも例外規定として認められているにすぎない。

 今回は労基法の施行規則に新たに例外を設け、要件をクリアした資金移動業者にも賃金振り込み業務を認めようという規制緩和だ。

 理論的には賃金全額をデジタルマネーで受け取ることもできるが、実際には、日常的な買い物などに必要な額をデジタルマネーで受け取り、残りは従来の銀行口座に送ってもらうようなイメージだろう。

 送金機能を持っているスマホアプリもあり、家族が同じサービスを使っていれば、現金を介さずに簡単に仕送りをしたり、小遣いを渡したりすることができるようになる。口座振り込みより低コストで利用できるため、従業員の希望があれば、賃金を月1回ではなく、複数回に分割して入金する企業も出てくるとの観測もある。

 ITと金融を融合したベンチャー企業などでつくる「フィンテック協会」が導入の旗振り役で、常務理事で弁護士の堀天子さんは「賃金支払いの多様化は働き方の多様化にもつながる」と指摘。これから兼業や副業が増えてくれば、簡便なデジタル払いは重宝されるはずだと説明する。

 IT大手のヤフーは、スマホ決済サービス「ペイペイ」5万円分を在宅勤務用機器の購入などに充てる費用として全社員に付与すると発表した。決済には使えるが出金はできない「マネーライト」というサービスを活用して実施する。賃金のデジタル払いが導入された場合の先行事例として位置付け、懸念される安全性などの問題点について検証するという。

 「商売の起点」

 一方で、不安視されているのはサービスの担い手となる資金移動業者による安全対策だ。免許制で資本などに厳格な要件が課されている銀行に対し、資金移動業者は認可制と登録制で、財務基盤は銀行と比べると安定性は劣る。

 さらに賃金が振り込まれた銀行が経営破綻しても、1000万円までの元本と利息を保護する預金保険制度がある。資金移動業者でこれに相当するのが財務局への供託金だが、これの還付手続きには一般的には半年程度かかるとされる。

 賃金のデジタル払いに反対している連合の仁平章総合政策推進局長は「労働者の生活の糧である賃金の支払い方法は安全で確実な方法でなければならない」と強調。ホームページでは、不正利用があった場合の保護に、銀行の預金者保護法のような共通規定はない点などが懸念されると指摘している。

 安全性というより、ビジネスの観点から慎重な姿勢を示しているのは銀行だ。これまで賃金の振り込みを独占、口座開設を契機に、顧客に住宅、教育ローンを勧めたり、投資信託を販売したりして事業を拡大してきた。大手銀行の幹部はこの「商売の起点」を侵されることに抵抗を感じると話す。

 全国銀行協会の三毛兼承会長は2月の記者会見で「賃金受け取りの手段としての役割を銀行預金への振り込みが担っていることは、金融サービス提供で大きな要素。(賃金のデジタル払い)制度化に向けて必要な関係者の合意に至る状況にはまだない」と述べた。

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