社会・その他

入院中の学びにロボットも ICT化にコロナ追い風 

 新型コロナウイルス禍で在宅勤務など多様なオンライン活用が注目されるなか、入院中の子供の学びにICT(情報通信技術)やロボットを活用する取り組みが広がっている。教育現場へのオンライン浸透で環境整備が進み、心理的なハードルも下がった。教員の病院への立ち入りが制限されるなか、治療と学びの両立に向けた試行錯誤が続いている。

 京都市伏見区の市立桃陽(とうよう)総合支援学校で5月下旬、入院中の児童や生徒への美術のオンライン授業が行われていた。

 「紙を半分に折り、絵の具をつけていきます。できていますか?」

 教員がモニター越しに問いかけ、授業を進める。反対側で画面を見ているのは、同市内の京都大医学部付属病院などにある分教室の子供たちだ。教員の指示に従い、笑顔で作業に当たっていた。

 同校の分教室に在籍する子供の多くは小児がんを患う。体調不良で院内の分教室に通えないこともあったため、2年前にオンライン授業を本格導入した。

「心理的ハードル下がる」

 コロナの感染拡大で教員の立ち入りが制限される病院もあり、オンライン授業の割合は増えている。また、支援学校のシステムを通して、児童・生徒が入院する前に在籍していた学校の授業や行事にオンラインで出席し、同級生らとつながる取り組みも広がった。入院中の生徒とつなぐ、双方向授業に取り組む高校も増えてきたという。

 石原廣保校長は「昨年の秋ごろから学校側の心理的なハードルが一気に下がった。入院前の生活に可能な限り近づけることが生きる力につながる」と話した。

 日本育療学会が昨年行った病弱教育のICT化に関する全国調査によると、病弱教育を行う特別支援学校71校のうち約75%が遠隔授業を導入し、残りの学校も大半が導入を検討しているとした。岡山県倉敷市の倉敷中央病院に近隣の小中学校が設ける院内学級でも昨年、オンライン授業が導入された。担当者は「学校に戻るときの不安を少しでも和らげたかった」と言う。

学校に“テレポート”

 ロボットを活用する取り組みも進む。IT技術の普及などに取り組む財団法人「ニューメディア開発協会」(東京)は昨年度、兵庫県や奈良県などの中高で、入院している生徒が遠隔操作できる卓上、移動、可搬の3タイプのロボットを活用する実験を行った。

 生徒は手元の操作で教室内を見渡すことができ、グループワークや体育の授業にも参加した。ロボットのモニターには自分の顔に代えて分身「アバター」を表示することも可能だ。生徒からは「授業中に発言しやすい」「遠隔でお昼ご飯を一緒に食べられた」などと好評だったという。

 ロボットを提供した「iPresence」(神戸市東灘区)のクリストファーズ・クリス社長は「入院によって前の学校から忘れ去られる不安を持つ生徒が学校に“テレポート”できる」と、ロボットのメリットを強調した。

 文部科学省の調査では、平成29年度に入院などで30日以上欠席した子供の9割が学習や相談支援を受けていたが、ICTを活用した遠隔授業は1・9%にとどまっていた。

 病弱児童の教育に詳しい京都女子大の滝川国芳教授は「以前は『環境が整っていない』などと学校がICTの導入に消極的だったが、コロナ禍は病弱教育のオンライン化の追い風になった。退院後の自宅での学びをサポートするシステムなど、取り組みをさらに進める必要がある」と話している。

病弱教育

 病気によって病院で入院治療を受けることになった児童・生徒が、病院内の院内学級などで学ぶことができる仕組み。院内学級は特別支援学校の分教室や近隣の小中学校の特別支援学級として設けられる。文部科学省によると、全国にある特別支援学校のうち、病弱・虚弱体質の子供が対象の学校は令和2年度に158校あり、約2万人が在籍。院内学級にはそれまで在籍していた学校から転校して入るため、学校間の連携も課題となっている。(地主明世)

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