社会・その他

「推本がバカみたい」東電株代訴訟で厳しい尋問 原発事故の個人責任認定は

 平成23年3月の東日本大震災で起きた東京電力福島第1原発事故は、当時の経営陣に責任はなかったのか-。事故翌年にこうした争点で提訴された株主代表訴訟が、提訴から9年を過ぎた今年に入り大きな動きを見せた。5~7月には被告となった元取締役4人の本人尋問を実施。一様に自らの責任を否定する被告らに対し、裁判官が厳しい口調で追及する異例の尋問となった。訴訟は11月末にも結審する見込みで、原発事故で初めて個人の責任が認められるかどうかに注目が集まる。(村嶋和樹)

 「推本がバカみたい」

 「先ほどからあなたの話を聞いてると、推本(政府の地震調査研究推進本部)がバカみたいじゃないですか」。7月6日に東京地裁で開かれた東電株主代表訴訟で、朝倉佳秀裁判長の口調は次第に苛烈になっていった。この日尋問を受けたのは、被告の1人で元東電原子力・立地本部長の武藤栄氏(71)。裁判官3人の補充尋問は当初の予定時間を大幅に超過し、約40分間にわたって続いた。

 裁判官が武藤氏に集中的に質問したのは、平成14年に公表された推本の長期評価に基づき、「福島第1原発に最大高さ15・7メートルの津波が到来する可能性がある」という子会社からの試算結果の報告を20年6月に受けた後の対応だった。

 武藤氏は先立つ原告側の尋問で、「長期評価の根拠となる新たなデータや知見が分からなかったため、社外の土木学会へ検討を依頼した」と説明。朝倉裁判長は「ファクトがないことをいきなり国の機関が言いだしたのなら、裏付けを得ようと思わなかったのか」「『根拠が分からないのは自分たちが理解できないからではない』と確認するプロセスはなかったのか」と矢継ぎ早に問い詰めた。

 閉廷後に会見した原告側弁護団も「裁判官も武藤氏の対応に疑問を感じているのではないか。(津波対策を講じずに)なぜ土木学会の検討を待ったのか、コアになる部分をずっと聞いてもらった」と手応えを口にした。

 刑事裁判と両輪

 今回の訴訟で原告の中心となったのは、平成3年から東電の株主総会で原発からの撤退などを要求し続けてきた株主らだった。

 原子力損害賠償法では、原発事故の賠償責任は運転事業者である電力会社のみが負うと定めている。そのため、他の公害事件などとは異なり、通常の民事訴訟では取締役個人の責任を問うことはできない。そこで、原告らは株主代表訴訟での提訴を選択した。

 株主代表訴訟は、取締役の違法行為によって会社が損害を受けた場合に、個々の株主が会社や全株主を代表して取締役個人の財産で損害を回復させる仕組みだ。勝訴しても取締役からの賠償金は訴えた株主ではなく会社に支払われるため、賠償請求額が兆円単位の高額でも訴訟手数料は一律1万3千円と安価に設定されている。

 原告側弁護団の海渡雄一弁護士によると、24年の提訴時には政府事故調の報告書程度しか証拠がなかったものの、補助参加人となった東電から社内資料などを証拠提出させることで、武藤氏が試算結果の報告を受けた状況などが明らかになったという。

 東電旧経営陣の刑事上の責任追及をめぐっては、勝俣恒久元会長(81)ら3人が28年2月に業務上過失致死傷罪で強制起訴されたが、東京地裁は令和元年9月にいずれも無罪を言い渡した。検察官役の指定弁護士は「このまま確定させるのは著しく正義に反する」として控訴しており、今年11月には東京高裁で控訴審が開かれる予定だ。

 海渡弁護士は「刑事裁判と株主代表訴訟の両輪で、旧経営陣の責任追及を進めてきた。個人の行動によって原発事故を防げたのかどうか、歴史的な真実を残せると期待している」と話した。

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