「力と無縁の人たちの話題」として見られ、この何十年間、政府や大企業のなかで(ヨーロッパとの比較でいうと)真っ向に議論されてきたとは言い難い日本の状況が、急激に弱みとして露呈しはじめてきたのである。
ウイグルにおける民族弾圧をめぐりビジネス判断が問われ、BLM(ブラック・ライブ・マターズ)に関する支援判断から経営姿勢がみられる。ミャンマーの軍事政権に繋がりがあることが地雷になる。あるいは劣勢の文化圏のモチーフの採用が「文化の盗用」と攻撃される。
これらのすべてが人権問題と(も)関わるのである。その起点は「人の尊厳を大切にする」ことだ。人権問題を話すと、白人中心主義の産物のようにとらえる人がいる。キリスト教をベースにしたユニバーリズム、米国などの人権外交が「西洋的価値観の押しつけ」との批判と重ね合わせるのだろう。
しかし、人が人として生きる実感をもてる機会を奪わない(奪われない権利)のは、人を殺してはいけないという次元と同じであり、文化的特徴よりももっと深いレイヤーにある。この手の議論に弱いというのは、あらゆるアングルからみて痛手なのだ。
それにも関わらず、このテーマは苦手であり腰が引け、その要因の一つにこのテーマに対する国際的議論のネットワークに入り切れていない現実があるという。
「ヨーロッパの左派インテリは古臭い」と批判していたら、いつのまには左派インテリとのつきあいを再開しないといけない状況になってきた。かなり皮肉な展開ではないだろうか。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。