働き方

昔は究極の就職先だったのに…なぜ霞が関のキャリア官僚は「不人気職場」に変わったのか (3/3ページ)

 ■「ブラック職場」に尻込み…学生の官僚離れが止まらない

 官僚の成り手も激減している。

 人事院によると、21年度の国家公務員総合職試験の申込者数(春季+秋季)は1万7411人。志望者の減少は5年連続で、前年度から2515人(12.6%)も急減、現行の採用方式となった12年度以降で最低となった。

 近年の志望者の減少傾向は加速しており、12年度に比べ3割も落ち込み、ピークの1996年度4万5254人に比べると、実に6割も減っている。当然のことながら、合格の倍率は、96年度の28.6倍から21年度(春季)の7.8倍へと、大幅に下がった。

 総合職といえば東大のイメージがあるが、東大出身の合格者数は15年度に459人(26.6%)だったが、21年度(同)には256人(14.0%)と、わずかな期間で半分近くになってしまった。

 官僚の道を選ぶことに尻込みする学生が激増しているのだ。異常といってもいいほどの数字の落ち込みは、霞が関の魅力が低下していることを如実に物語っている。

 「霞が関のブラック職場化」の話題がしばしば取り上げられるようになり、かつて「究極の就職先」ともてはやされた霞が関への入り口を目前にして、人生の選択に迷う学生の姿が目に浮かぶ。

 ■「政」の下請け化からの解放することが急務だ

 急速に進む「官僚離れ」の実情を踏まえ、菅内閣で国家公務員制度担当に就任した河野太郎国務相は「霞が関のブラックな状況を『ホワイト化』する」と言明した。

 もっとも、ここで指摘された「ブラックな状況」というのは、長時間労働など労務問題を念頭に置いたもので、働き方改革の文脈で取り上げられているようにみえる。

 だが、内閣人事局の意識調査で明らかになったように、若手男性職員が退職したい最大の理由は「霞が関が、自身が成長できる職場と思えなくなった」ことであり、「長時間労働」は3番目にすぎない。

 官僚を志望する大半の学生の動機は、さまざまな政策の実現を担う一員になり、そこに自己の存在意義を見いだそうとすることといわれる。

 ところが、入省すれば、本人の意に反して日々、国会対応や関係方面への説明に追われ、国会議員に届ける資料づくりなどの雑事に時間を割かれて、若手官僚ほど「国民の役に立つ政策を作る実感が持てない」と悩みを抱え込むことになる。

 したがって、霞が関官僚の士気を向上させるためには、「官」が「政」の下請け化しているいびつな現状をあらため、「政」の呪縛から解放しなければ、本質的な解決にはならないことを肝に銘じるべきだ。

 ■岸田首相は「政」と「官」の関係を再構築できるか

 かつて、「お飾り」の大臣を抱いた官僚が、政策を立案し法案を通すために族議員と交渉して国会対策まで行う「官僚国家」と呼ばれた時代があったが、政治主導が叫ばれるようになり、安倍・菅政権時代に政策の主導権を官邸が握る「官邸主導」の体制が飛躍的に進んで、「政」と「官」の力関係が逆転してしまった。

 岸田首相は、自民党政調会長時代の18年6月に党の会合で、「『トップダウン』か『ボトムアップ』かは、バランスだ。『トップダウン』がふさわしい時には『トップダウン』で物事を決定する、『ボトムアップ』を使うべき時は『ボトムアップ』の手法を使える。賢明な使い分けができる政治こそ、国民にとって安心できる安定した政治なのではないか」と語った。

 政治手法の本来のあり方がボトムアップかトップダウンかの二者択一ではないことは言を俟(ま)たない。

 振れすぎてしまった振り子を揺り戻し、「政」と「官」の良好な関係を再構築できるかどうか。岸田政権の有言実行ぶりを、霞が関や永田町はもちろん、国民が注視している。

 

 水野 泰志(みずの・やすし)

 メディア激動研究所 代表

 1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で万博協会情報通信部門総編集長。現在、一般社団法人メディア激動研究所代表。日本大学法学部新聞学科で政治行動論、日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。

 

 (メディア激動研究所 代表 水野 泰志)(PRESIDENT Online)

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