
シャイアー買収について記者の質問に答える武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=7日、東京都中央区【拡大】
武田薬品工業がアイルランド製薬大手、シャイアーを約6兆2千億円で買収し、日本企業として過去最大の海外M&A(企業の合併・買収)を成し遂げた。しかし、世界の製薬業界で、今年に入ってからも大型M&Aが相次いで発表されている。売上高世界トップ10入り、メガファーマ(巨大製薬企業)に仲間入りしたばかりの武田だが、ますます激化する競争の中で、M&A効果を確実なものにする経営手腕が問われることになる。(安田奈緒美)
「われわれのパイプラインは成熟したものになる」
1月8日に武田がシャイアーの買収完了を発表した直後、同社のクリストフ・ウェバー社長は米サンフランシスコにいた。世界中から製薬企業幹部や投資家が集まる世界最大級の国際会議「JPモルガン・ヘルスケア・カンファレンス」で講演するためだ。シャイアー買収は世界も注目したニュース。「競争力のある会社になる」と宣言したウェバー氏は、現地では他のメガファーマの経営者と並んで、存在感を強めていた。
製薬業界には独特の業界用語が多い。ウェバー氏は講演で「パイプライン」という言葉を強調したが、これは新薬開発、または新薬候補のことを指す。新薬開発には販売に至るまでに基礎研究から治験(臨床試験)、申請、承認などのさまざまな局面があり、製品化されるまでの期間は10年以上と長く、その成功確率は2万~3万分の1ともいわれるほど低い。
国内最大手の武田だが、近年はこのパイプラインの枯渇に悩まされてきた。製薬会社にとって、パイプライン、しかも製造販売を当局に申請する直前の「フェーズ2」や「フェーズ3」と呼ばれる開発後期品をいかに充実させるかが収益力を高める鍵となるが、武田では2000年代後半から10年代前半にかけ、高脂血症治療薬など画期的新薬として期待をかけた自社開発の3製品が開発後期の段階で相次いで頓挫していた。
ウェバー氏も「今の戦略をとる4年前まで、フェーズ3は4つだけだった」とその脆弱(ぜいじゃく)さを指摘。14年に社長就任した後は欧米の製薬企業の買収や、他社の後期開発品を導入する動きを加速させ、パイプラインの拡充に努めてきた。