政府が経済財政諮問会議で最低賃金引き上げ加速の検討を始めたのは、米中貿易摩擦による景気の鈍化や消費税増税を踏まえ、賃上げを促して消費を下支えする必要があるとみているからだ。もっとも、中小企業などにとって人件費の膨張は苦しく、政府が賃上げを“強制”するように見えれば、反発が強まる恐れもある。このため今回は、具体的な引き上げ水準の目標明示を見送った。
「内需の下支えを確保することにより、成長と分配の好循環をしっかり確保していくことが重要だ」。安倍晋三首相は最低賃金に絡み諮問会議でこう述べた。
最低賃金は平成28年から3年連続で3%程度の引き上げが続いており、30年は全国平均で時給874円となった。
政府は最低賃金の引き上げが消費の底上げに役立つと分析。諮問会議に示した推計では、最低賃金の平均が24年の749円から、30年の874円まで125円上昇したことがパートタイム労働者の賃上げにも波及し、9200億円規模の消費押し上げ効果があったとした。また最低賃金の引き上げは企業にとっても、人手不足の中で優秀な人材を確保する“武器”になる。
ただ、今回の民間議員の提言では具体的な引き上げ水準の目標を示さず、安倍首相も諮問会議のあいさつで触れなかった。
政府内では消費税率が8%から10%へ2%分上がることを踏まえ、「3%以上」の引き上げ目標を打ち出すべきとの意見もあった。しかし最終的には中小企業などの反発を考慮し、政府が掲げてきた「最低賃金1000円」を早期に目指すべきだとの提言にとどめた。
中小企業が安心して最低賃金を上げるには政府による環境整備も重要。限られた財源と折り合いをつけつつ、どこまで有効な支援策を講じられるかがカギだ。