専欄

渋沢栄一と中国

 新1万円札の肖像への採用が決まった渋沢栄一に対し、中韓両国が異なった反応をみせている。韓国メディアはいち早く、「渋沢は朝鮮半島に対する経済収奪を象徴する人物だ」と反発した。ところが中国側からは、そうした声は聞こえてこない。むしろ企業経営のあるべき姿を模索する経営者にとって、渋沢から学ぶべき点は多いと受け止められているようだ。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 中国の多くの企業は高度成長の勢いに乗って、大いに規模を拡大してきた。ところが2008年に発生したリーマン・ショック以降は、それまであまり見えなかった経営上の欠陥が目立つようになり、悩みを抱える経営者も少なくない。

 そうした経営者が飛びついたのが日本式経営の手法である。代表的なのが京セラ創業者の稲盛和夫氏だ。「もうけたい、楽をしたいということが人生の目的では、結局、経営者自身も真の幸福を得ることはできません」

 稲盛氏が中国を訪れると、その経営学を学ぼうとして数多くの企業家が詰めかける。

 稲盛氏とともに高い評価を得ているのが、渋沢だ。中国メディアなどの紹介をみると、「日本資本主義の父」「日本近代実業界の父」などと肯定的で、経済収奪をしたといった類いの否定的な評価はみられない。

 その背景には、渋沢と中国との深いつながりが指摘できよう。渋沢は中国を3回も訪問しており、革命家・孫文との付き合いもあった。1913年に孫文が訪日した際には、孫文から鉄道建設への支援を要請され、渋沢はそれに応じている。

 渋沢の代表作が「論語と算盤(そろばん)」であるように、儒教を重視していることも、中国で注目される要因といえよう。

 「論語と算盤」の中で渋沢は、論語と算盤(もうけを意味する)とは密接な関係があると説いている。すなわち、「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができない」というのだ。「自分さえもうかればよい」と利益追求に走ってきた中国の経営者にとっては、耳の痛い話であろう。

 渋沢の教えに「合本主義」がある。「公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方」である。中国では桁外れに高額な報酬を得ている企業経営者への批判が高まっている。これら経営者にとって、公益追求の考え方は、今後の新たな道しるべになるかもしれない。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus